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「とにかくぬるいプールなんだねぇ」

『電氣ホテル』/『ロッパの悲食記』

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2014年12月10日(水)

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【私が編集した本読んで下さい!】

電氣ホテル』吉田 篤弘著/文藝春秋
文藝局第二文藝部統括次長・大嶋 由美子

電氣ホテル』吉田 篤弘著/文藝春秋
文藝局第二文藝部統括次長・大嶋 由美子

 不思議なタイトルですよね。電氣ホテル。

 しかし『星を賣る店』(クラフト・エヴィング商會著)を手にとられた方は、このホテルと同名のホテルが昭和初期にかつて実在したことをすでに知っておられるかもしれません。

 いわゆる〈駅前ホテル〉が主要ターミナルに作られた最初期の上野の一軒。

 現在残っているのは、昭和5年(推定)作成のモダンなデザインのパンフレット一通、そして『下谷區史』の古い集合写真の背景に映りこんだエントランスの姿だけです。
(もしウチのじいさんが宿泊したことあるぞ、わが一族が経営していましたぞ、という方がおられたら、ぜひ編集部にご一報を)

 小説のほうの「電氣ホテル」は〈この世の二階〉にあります。さて〈この世の二階〉とは、一体どこにあるのでしょう。じつはこの本を読んでもわかりません。お尋ねすると、著者たる吉田篤弘さんは落語の「二階ぞめき」をヒントに出してくださるのですが、さて「二階ぞめき」の「二階」といったら、そんなの訊いちゃア野暮じゃねえか、みたいな咄じゃありませんか……

 筋を説明するのがいささか困難な小説でもあります。いわば、星座をひとつふたつ示しても星空全体のかがやきを語りつくすことができないように。

たどりつけないホテル

 物語は(まるでカフカの『』のように)ホテルには一向たどりつかず、総勢百名近い奇人たち(そのうち六四人は兄弟ですが)、そして魅惑的な謎がつぎつぎ繰りだされながら、謎の多くは宙づりになってゆきます。でも考えてみたら、この小説はミステリではありません。マジックが種あかしをしないように、なにもかもが謎だらけでさっぱりわからないまま、生まれ死んでいく私たちにいっときの安心を与え、回答めいたカタルシスを用意してくれるジャンル小説の肉体を持っていないだけです。

 困惑する必要はないのです。

 なぜならどこを齧ってもおいしいのですから。

 じつは、物語の冒頭を読ませてもらった一等最初、隣に座っていた社の先輩がプリントアウトをとりあげ、いきなり声にだして読み上げはじめるや、読み切った途端わらい転げてしまった逸話のあるテキストです。そんなことはふつう、なかなかありません。

 私も本を作り終えて数か月たった今も、気がつくと本文の一節を口ずさんでいることがあります。〈すこうる、すこうる、雨が降る〉、〈とにかく、ぬるいプールなんだねぇ〉など。

 気持ちいい言葉のつらなりがあちこちに散らばっていて、奇麗な音と旋律をもったジングルのように耳に残っては、時折、日常に降ってくるというわけです。 そう、つまり、この小説はまるっと呑みこんで、それぞれ好きなところを齧ったり眺めたり朗読して味を確かめたりするのが吉、と担当編集者がひそかに思ってしまうような本なのです。

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