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レーニナとジョンの恋の破局

アンドロイド/サイボーグ考(75)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(19)

2014年11月25日(火)

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 ジョンは自分がレーニナの愛に値する人物であることを証明するために、何かを「したい」のだと訴えます。これは、敬う女性の愛に値する騎士であることを証明するために、相手の女性の命じることなら、猛獣狩りのような危険な行為でも、床掃除のような名誉を傷つけるような行為でも、実行してみせなければならない騎士の宮廷愛の論理です。しかしレーニナには、そのような文化がないために、ジョンが何を言っているのか、まったく理解できません。理想国は、誰もが好きな相手と寝てよいという快楽主義の文化をもっているからです。

 著者は理想国のモットーとして「万人は万人のため」を挙げてこの文化のありかたを示していますが、この快楽主義は、現代の資本主義社会とそれほど違うものではないことは、お分かりいただけると思います。これはわたしたちの文化をたんに極端にしたものにすぎないのです。

*      *      *

ジョンとレーニナのすれ違い

 「なぜそんなことをする必要であると思うのでしょうか……」。レーニナはこう語り始めたが、最後まで語り終えることはしなかった。彼女の声にはどこか苛々とした調子がこもっていた。あたしが身をもたせ掛け、唇を半開きにして、だんだんと顔を近づけているというのに、このでくのぼうは急に立ち上がったりして。それではわたしがもたれかかるところがないじゃないの……。来る前に飲んできた半グラムのソーマが効いているとは言え、レーニナが苛立つのも、まったく無理からぬことだった。

 「[野蛮人国の]マルペイスではね、誰かと結婚したくなったときには、山のライオンを狩って、その毛皮を相手の女性のところに持ってゆかなければならないのですよ」と、野蛮人はとりとめのないことを言い始めた。「猿の毛皮でもいいのですが……」
 「ここはイギリスです。ライオンなんかいません」。レーニナは吐き捨てるように言った。

 そこで野蛮人は急に、軽蔑するような憤りの表情をみせながらつけ加えた。「ここにライオンがいたところで、ヘリコプターから毒ガスでも使って殺戮するのでしょうけどね。でもレーニナ、わたしはそんなことはしませんよ」。ジョンは肩をいからせて、彼女の眼を正面から見詰めた。しかし彼がそこに見いだしたのは、まったく相手の言うことを理解できずに苛々と相手を眺めているまなざしだけだった。

ジョンの申し出

 ジョンは困惑して、ますますとりとめのない言葉をつけ加えた。「ぼくはあなたが命じられることなら何でもしますよ。ご存じのように『楽しいことにも、骨の折れるものがあるが、……どんなつまらない仕事でも、立派な実を結ぶことになる』[1]と言うではありませんか。わたしもまったく同感です。あなたが望まれるのなら、床だって掃除しますよ」。

[1]シェイクスピア『あらし』三幕一場。邦訳は『シェイクスピア全集』第三巻、筑摩書房、297ページ。

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「レーニナとジョンの恋の破局」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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