コンピュータを呑む

【ITと酒】午前0時過ぎ、居酒屋で本当の勉強会がはじまる

ベテランがコンピューターの設計手法を若手に伝授する「勉強宴会」

文:谷島 宣之 / 写真:佐野 初夫 10.23.2014

夕方6時過ぎから講演会、9時近くに居酒屋へ移動、講師を交えて酒を飲む。延々と議論を続け、午前0時をまわる頃から3次会を決行。そこからが本当の勉強会という集まりが大阪にある。

冒頭の絵は龍の胴体を一筆で描いたもので一筆龍と呼ばれる。迫力ある絵だが脇に書かれた文字が気になる。勉強宴会とは一体何だろうか。

一筆龍は「関西IT勉強宴会」という集まりのWebサイトに掲げられている。関西、IT、勉強までは分かる。ITはインフォメーションテクノロジーの略で、要するにコンピュータを利用すること。関西地区にあるコンピュータの勉強会だと思われる。

だが宴会となるとよく分からない。岩波国語辞典を引くと「酒食をそなえ、歌舞などをして楽しむ会。さかもり」とある。勉強宴会という言葉は本来成立しないのではなかろうか。

この関西IT勉強宴会に筆者は参加したことがあるのだが、勉強宴会の実態をつかめなかった。前半の勉強会に出席したものの、後半の宴会は失礼してしまったからである。それは次のような経緯であった。

「大阪に来られることがあったら連絡をください。勉強宴会を開きます」

関西IT勉強宴会の主催者、佐野初夫氏からインターネット上のソーシャルネットワークサービス(SNS)経由で連絡をもらった。佐野氏とはそのSNSを通じて知り合いになっていたがきっかけは少々変であった。

別な人とSNS上でやり取りをしていた際、「以前ご挨拶した佐野です」という割り込み、ではなかった書き込みがあった。だが会った記憶はない。「どこでお目にかかりましたか」と聞くと「人違いでした」という返事が来た。それから時折SNS上で意見交換する間柄になったが実際に会う機会はなかった。

佐野氏は様々な人を講師に呼び、勉強会を開いているという。依頼は有り難いが考えているうちに困ってしまい連絡した。

「ここ数年ほとんど取材をしておらず勉強会で話す演題の持ち合わせがないのですが」

「書かれた本の話でいいですよ」

2013年末に筆者は初めて自著を出版した。現金なものでそう言われると急にやる気が出て、久しぶりに大阪へ出張することにした。こうして今年3月、関西IT勉強宴会の第30回に講師として参加した。

会場は新大阪にある住友電工情報システムの会議室であった。いつもは梅田界わいで開催するそうだが筆者が最終の新幹線で帰ると言ったため新大阪で場所を探したという。20数人の方が集まった。名刺交換をすると企業の情報システム担当者の方、IT企業の方、独立して仕事をしている方、経営者など様々な立場の方が来ていた。

その日の勉強会では筆者だけではなく参加者6人が話をした。なぜそうなったかというと佐野氏との間で次のやり取りがあったからだ。

「本の話でいいと言われて引き受けましたが、何を話そうかと考えてみるとやはりネタがありません。言いたいことは本に書いてしまったので」

「本を書いた意図を話してくれれば後は大阪の面々が本についてコメントしましょう。論客がたくさんいますから」

確かに6人は論客で自分の意見や持論を披露され、どれも興味深かった。筆者の本は話のきっかけにすぎなかったと言ってよいが、6人は一応触れてくださった。「本を買って読みました。後でサインを頂けるとうれしいです」と言う人もいれば「いつもネットに書いていることと変わらないだろうから本は読んでおりません」と言う人もいた。前者の発言を聞いて大阪まで来たかいがあったと思った。後者の発言にむっとしたかというとそうでもない。その人の発表も面白かったからである。

6人の話を聞くだけで勉強会が終わりになればこれほど楽な仕事はなかったのだが、そういう訳にもいかず再び立って6人の意見について感想を、質問をした人に対して回答を、それぞれ述べた。さらに6人以外の出席者からあれこれ質問が出て、それらに答えているうちに夜9時になった。東京行き新幹線の最終は9時20分に新大阪を出る。「念のためタクシーで行ったほうがいい。ワンメーターです」と佐野氏に言われ、車で新大阪駅へ向かい、最終の新幹線に無事乗ることができた。

新幹線が発車してから電話をしようと思い立った。「過去30回のIT勉強宴会で講師が飲まずに帰るのは今回で2度目」と佐野氏に指摘されて気になっていた。佐野氏の携帯電話の番号を聞いていなかったものの別の出席者の名刺に記載があったので、その人にいきなり電話をかけた。

「ええと先ほどの勉強会に出たものですが」

「ああ、ありがとうございました。こちらは今、乾杯したところです」

「最終に乗れましたので皆さんによろしくお伝えください」

後日佐野氏がブログに公開したIT勉強宴会の報告文を読むと、新幹線から電話をかけた時、勉強宴会参加者は会場近くの居酒屋で焼酎の一升瓶を開けたところだった。閉店まで飲み続け、何人かは3次会をするため新地まで繰り出したと書かれている。

家飲み酒とも日記