今月のビッグイシュー

自分に合った『深夜食堂』を持つ方法(前編)

エンテツさんに聞く酒場のカウンターカルチャー

文 / 写真:須田泰成 12.08.2014

『深夜食堂』や『孤独のグルメ』などのヒットもあり、昔ながらの食堂や酒場に憧れる人が増えている。常連率が高いカウンターに自然に馴染むにはどうすればいいのかを考えてみた。

たった数分で酒場中を虜にした若い女性のコップ酒

エンテツ:カウンターに馴染むのは、時間がかかるものだよね。だけど、やはり、カウンターは人次第だから、その人次第なんだな。

去年の冬、俺の地元・大宮の常連が濃くて店も愛想がないので有名な大衆酒場で、若いんだけど、すごい女を見たんだ。

須田:どんな女だったんですか?

エンテツ:仕事帰りのスーツ姿で、30歳そこそこかな。初めて見る顔だった。すーっと店に入ってきて、空いてる席に座ると、店員さんに「冷や酒と奴ください」と言うんだよ。

コップになみなみ注がれた冷や酒が来ると、奴をツマミに、コップに両手を添えて、きゅーっと飲み干す。背筋がピンと真っすぐに伸びていて、きれいなんだね。思わず見とれてしまったよ(笑)。いい飲みっぷりでね。すぐ飲み干すと、また「冷や酒お代わり!」と、注文したんだ。

二杯目が来ると、また同じように背筋を伸ばして、きゅーっと飲み干したんだよね。周りを見ると、店の人間も常連も、その若い女が気になって仕方ないみたいで、ちらちら見ている。

次は何を頼むかな?と思っていたら、すくっと立ち上がって、「お会計してください」と言って、帰ってしまったんだ。じつに水際立った飲み方と所作で、周囲を圧倒していたね。去って行った彼女の背中を追う店の人間も常連も、「彼女にまた会いたい」という目をしてるんだよね(笑)

須田:スゴイですね。たった一回で店と常連の心をつかんでしまったんですね。

エンテツ:あの若い女はスゴイ。俺も一緒に飲みたいと思った(笑)

須田:でも、考えてみると、それに近い話はありますね。

近所の昭和の酒場で、瓶ビールをかっこ良く飲む、これも若い女性がいて、彼女もすぐにカウンターに馴染みましたね。

エンテツ:その辺りに何かヒントがありそうだね。

須田:次回、掘り下げてみましょう。

(次回に続く)

遠藤 哲夫(えんどう・てつお)
1943年新潟県生まれ。「大衆食堂の詩人」「酒飲み妖怪」など、いろいろいわれるが、なんでも書くぞのフリーライター。近著は『大衆食堂パラダイス!』(ちくま文庫)、『大衆めし 激動の戦後史』(ちくま新書)。東京新聞で「エンテツさんの大衆食堂ランチ」、美術同人誌『四月と十月』で「理解フノー」を連載中。
須田泰成(すだ・やすなり)
コメディライター/地域プロデューサー/著述家
1968年、大阪生まれ。全国の地域と文化をつなげる世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」代表。テレビ/ラジオ/WEBコンテンツや地域プロジェクトのプロデュース多数。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。
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