今月のビッグイシュー

【京の町家】普通の観光に飽きたなら、町家に泊まろう

京都「ウサギノネドコ」を訪ねる

文/写真:須田泰成 12.11.2014

普通の観光に飽きた人たちの間で、昔ながらの町家に泊まる旅が注目を集めている。ウナギの寝床ならぬ、「ウサギノネドコ」という町家を紹介する。

京都の町家に宿泊する観光が、静かなブームとなっている。

サービスは極めてシンプルで、一軒家の町家を一日単位で借りるだけ。用意されているのは、寝具と洗面用具、キッチン用品くらい。旅館のような「おもてなし」があるわけではないが、家族や仲間と昔ながらの京都の庶民の暮らしに思いを馳せながら泊まるのが面白いのだという。

市場で買ったおばんざい(惣菜)をちゃぶ台に並べて一杯やったり、地元の人たちと一緒に銭湯に浸かったり、近所の食堂や居酒屋に通ったり、地下鉄や市バスで市内を散策してみたり。

「京都 町家 宿」などのキーワードで検索すると、たくさん情報が出てくるが、今回は、とびきりユニークな町家「ウサギノネドコ」を訪ねた。

東京から移住して町家の宿をはじめた

ウサギノネドコという変わった名前の町家は、JR二条駅から徒歩7分の御池通り(おいけどおり)沿いにある。1階は、自然の造形美をテーマにした不思議な商品が並ぶ雑貨屋。2階は、1日1組限定で貸す素泊まりの宿である。

ウサギノネドコの外観

宿守として運営するのは、吉村紘一さんと順子さんのご夫婦だ。2011年、長男の誕生をきっかけに二人ともそれまでの仕事を辞めて、紘一さんの生まれ故郷である京都に移住。築70数年というこの物件をリノベーションして、2012年8月、まずは宿として開業した。

店主である吉村紘一さん

「この家は、宮大工をしていた私の曾祖父が弟子のために建てたものなんです。改装前はしばらく人が住んでいなかったので、かなりボロボロでしたが、現代の職人さんの力を借りて蘇りました」

宿に当たる2階部分の様子
庭の様子
風呂

1日1組の料金が2万円から。6畳間と4畳半の2部屋。仲間4人で泊まれば、一人あたり数千円で京都の町の暮らしを肌で感じることができる。

ウサギノネドコとは、ヒカゲノカズラという植物の別称である。フワフワした感触のため、昔の人たちが、ウサギの寝床を連想したと思われる野山の草だ。入口が狭くて奥に細長い、京都の町家の特徴を現す「ウナギの寝床」という言葉とも掛け合わせた。実に遊び心あふれるネーミングである。

「大学を卒業して、広告代理店でマーケティングとコピーライティングを担当していました。上司にも仕事にも恵まれて充実していましたが、10年経ったら独立しようと考えていました」

最初は、漠然と地方に引っ越そうと思っていたという。長野で別荘の物件を探すという脱サラのパターンも検討した。しかし、時が経つにつれて、自分のルーツである京都の存在が大きくなってきた。

「会社を辞めて、まず京都に引っ越しました。そして、いまの物件での商売を始めることを決め、2012年1月に改装をスタート。建築士さんと、工務店さんの力を借りて改装しましたが、庭やショップの内装などは仲間と家族とでつくりました。これがなかなかの重労働で、途中2週間ほど入院したこともあります。とうてい営業できる状態ではないのに家賃が発生したり、支出が重なったりしたストレスもあったかもしれません(笑)」

当時フリーランスのコピーライターとしての仕事も請け負っていた。その道で生活を続ける道もあったのに、わざわざ町家を改装した理由は、「人が集まる場所をつくりたかった」から。

1階客間

「ありがたいことに、1年くらいすると、いい感じで予約が埋まるようになりました。一般のお客さま以外に、東京の友人たちも来てくれる。東京に住んでいたときよりも、頻繁に会えている気がします(笑)」

「チェックインとチェックアウトの際に、私や妻やスタッフが、お客さまとコミュニケーションをとるようにしています。私たちが行く近所のお店をご紹介したり、観光名所への行き方をお教えしたり。リピートしてくださる方もいらっしゃいますし、単なる宿泊ビジネスではなく、人のつながりが広がっているのを感じます」

ウサギノネドコは、吉村さんを軸に人がつながる町家の宿なのだ。