今月のビッグイシュー

自分に合った『深夜食堂』を持つ方法(後編)

エンテツさんに聞く酒場のカウンターカルチャー

文/写真:須田泰成 12.18.2014

『深夜食堂』や『孤独のグルメ』などのヒットを受けて、昔ながらの食堂や酒場に憧れる人が増えている。お店に馴染むにはどうすればいいか。大衆食堂の詩人・エンテツさんとの対談、後編。

カウンターに「消費主義」は似合わない

エンテツ:向いてないね。現代人は、カネさえ払えば、「主人」「王者」「神様」という態度になる傾向があるけど、その根本には、「消費主義」に飼いならされているってことがあると思うんだよね

須田:消費主義。ここでは「お客様は神様です」ということですね。

エンテツ:「お客様は神様です」を店の側ではなく、客の側から言うのが、消費主義だね。手っ取り早く、簡単にカジュアルに、なんでも手に入る。カネ次第だけど。そして、消費しても、なかなか満足が得られず、いつも欲求不満で次の消費を求め続ける。消費モンスターって感じ。たちまち、クレーマーに変身したりする。

須田:この間、経堂の100円ショップのレジで偉そうにしてる人を見てのけぞりました(笑)

エンテツ:100円ショップで威張るとは(笑)。でも、想像できる。こういう人は、カネさえ払えば、自分が「主人」「王者」「神様」だという態度になる。

須田:安くても得したい。代金を払うんだから、店よりも客の方が上。そういう人は多いですよね。カウンターに消費者主義は似合わないですよね。

エンテツ:似合わないね(笑)。だいたい、そういう上下関係でモノゴトをとらえるのは、ヨコ・カルチャーのカウンターには馴染まないですよ。

須田:飲食を語る際に「コスパ」って言葉を使う人が多いですよね。

エンテツ:多いねえ。自分の払ったカネに対する対価でしか、モノゴトを見ないわけで、実は貧しいことだと思うね。もっと、飲食を自由に快楽しましょうよ、と言いたい。

須田:いろんな人の出会いや文化が生まれるカウンターの常連は、その場所の雰囲気の発酵を応援するタニマチのような存在かもしれませんね。

エンテツ:そうだよね。自分が好きな店と付き合うことが、時間を経て、さりげなく店を育てることになっていく。ようするに、自分にとって大事なものを育てるには、まず無償の愛をそそぐね。だから、コスパという感覚とは相入れない。

須田:何年か前の春、近所のカウンターで、常連の一人が、突然その店で一番高いお酒を注文して、その時いたお客さん全員と店のご夫婦におごり始めたんです。「どうしたんですか?」と尋ねたら、「ここのお孫さんがピカピカの一年生でさ」という返事で。「ランドセル代の足しにはならないけど」なんて言いながら、常連さんが音頭をとって乾杯して。店の人は「気持ちだけでうれしいです」なんて言いながら。

エンテツ:ようするに、そういうことだよね。見返りを求めずにできる範囲の散財をする。

須田:あと、この人物は絶対ここのカウンターに馴染むという友人を連れてきて、「この店はこれがウマい!」なんて、ささやかな散財でおごって飲んだりね。

エンテツ:自腹を切って上客を増やしていくわけだ。店にとってはありがたいね。

須田:カウンターの馴染みって、計算せずに飲んでる人が多いですよね。

エンテツ:そうだよ。自分も店に参加して育ててるんだよ。金額の多い少ないは関係ないけどね。

以前よく行っていた都内の食堂の常連さんが、毎日のように勤め帰りに寄るの。いつもカネがなくて、小さな財布の底から、探すように小銭を集め、コップ一杯の酒、180円だったかな、それを払って、しばらくおしゃべりをして帰る。彼にとって、その食堂はなくてはならない存在なの。店も常連も含めてね。そのことが、ほかの人たちにも、痛いほど伝わるの。

須田:自分に合った『深夜食堂』と持つということは、自分が好きな文化が熟成する場所を育てることなんですね。

エンテツ:居心地のいい場所は、受け身じゃつくれない。自分もさりげなく参加しないといけないんだよね。

※エンテツさん近影以外の画像は対談内容に沿ったイメージです

遠藤 哲夫(えんどう・てつお)
1943年新潟県生まれ。「大衆食堂の詩人」「酒飲み妖怪」など、いろいろいわれるが、なんでも書くぞのフリーライター。近著は『大衆食堂パラダイス!』(ちくま文庫)、『大衆めし 激動の戦後史』(ちくま新書)。東京新聞で「エンテツさんの大衆食堂ランチ」、美術同人誌『四月と十月』で「理解フノー」を連載中。
須田泰成(すだ・やすなり)
コメディライター/地域プロデューサー/著述家
1968年、大阪生まれ。全国の地域と文化をつなげる世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」代表。テレビ/ラジオ/WEBコンテンツや地域プロジェクトのプロデュース多数。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。
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