LIFE

【宮澤崇史】「プロとして、家族として、当たり前のことをしただけなんです」

活躍の源泉を追う 宮澤 崇史氏(レモネード・ベルマーレ監督/元プロ自転車競技選手)の場合 第2回

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文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:菅野 勝男

04.09.2015

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母親に肝臓を提供しつつも第一線に復帰することに成功し、名だたる記録を残したプロの自転車競技選手、宮澤崇史氏。プロ意識を保ちつつも、「楽しむ」ことを実践し続けたアスリートの原点を探る。

前回からの続き、トップ画像の写真提供:宮澤氏、文中敬称略)

宮澤が高校を卒業する頃、日本のロードレース界にはプロチームはなく、実業団が主流だった。

しかも、日本でもトップクラスの実業団チームに入る、つまり就職をするためには「大学卒業」という条件があった。

「ある時、自転車の雑誌を見ていたら、日本鋪道とかシマノというトップクラスのレーシングチームの採用は『大卒』と書いてあったんです。高校1年生の時は、たまたま乗鞍で優勝をしましたが、いざ同じ年代でも強者(つわもの)どもが集まる国体やインターハイとかでは、全くと言って良いほど結果は残せていませんでした。

『日本は広いな。お山の大将じゃ駄目だな』と痛感していたんです。

ましてや、自転車競技で大学進学なんていうことは、経済的にも許されないと思っていました。

そんな時です、『シクロクロス』という、ロードレースがシーズンオフになる晩秋期と冬季に、ヨーロッパ各地で行われているオフロードの競技がありました。そのシクロスの世界選手権があり、運良く日本高校選抜メンバーに選ばれたんです。そして、その世界選手権で22位という成績を出せました。

そして、青年の部のレースに参戦していた『ラバネロ』という東京のチームの監督が、『もし、来年も走りたいのだったら、うちのチームで走っていいよ』と言ってくれました。進路を模索していた時期でしたので、即座に、東京行きを決めたんです(笑)」

*シクロクロス:人工の障害物(柵、階段など)が設けられた不整地を周回する自転車競技。ロードレースがチームでの集団戦術による連携などの駆け引きを駆使するのに対して、シクロクロスは選手個人の身体的能力や自転車の操舵(そうだ)能力によって勝敗が決まることが多い。

このとき声をかけたのは、元自転車トラックの競技選手で、東京・練馬で自転車ショップを営んでいた高村氏だった。当時、そのラバネロはアマチュアのサイクル・クラブチームとして活動しており、実業団を抑えて「ツールド北海道」に関東選抜チームとして出場し、総合9位になるなどの好成績をおさめていた。

そんなアマチュアながら実業団顔負けのチームに誘われて、高校を卒業した宮澤は、東京で1人暮らしを始める。

「東村山というところに住んで、ラバネロのクラブチームに参加していたんです。そのチームが実業団のチームに負けないくらい強くて、鍛えられていました(笑)。

親が生活費を出してくれていたので、情けなくてなんとか自立できる方法はないかと模索していた時期です。その頃、日本鋪道(現NIPPO)のサイクリングチームの監督である大門さんが、若い選手をヨーロッパに連れていくプログラムがあるということで、僕に声をかけてくれたんです」

こうして1カ月間の若手育成をイタリアで行うプログラム、いわゆる強化合宿に運よく入り込めた。そして、プログラムに参加した選手同士で日本代表チームを結成し、現地で開催されていたワールドカップのジュニアの部に参戦することになる。

「一応、ナショナル・チームです(笑)。海外から来た同年代のサイクリストたちと一緒に走れるなんて夢のようでした。楽しくて、楽しくて、レースの最後の峠までたどり着いたとき、なんと自分が先頭集団にいたんです。我ながら『すごいっ!』と思って笑っていました(笑)」

ジュニアながら、初めてロードの世界のトップ選手たちと競い合った。そして、海外の選手たちのレベルの高さを実感したのと同時に、自分の中に眠っている未知なる力が発揮された瞬間でもあった。

「世界の中でも、ちょっとは通じたような気がしていましたから『なんとか海外でやれないものか』と思い、関係者の方に『来年、もし可能なら海外に行って走ってみたいです。なんとかなりませんか?』と相談してみました。

そうしたら『じゃあ、チームを紹介してあげるよ』と言ってもらえたんです。当時はなんとか母に生活費を出してもらっていたので、納得のできる結果をどこかで出すしかなかったんです。

それが結果として海外だった。全てを決めた後で母に報告しました。『イタリアに行きます』と……(笑)」

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