インタビュー 情熱と挑戦の先に

【宮澤崇史】「うれしいのは、勝ったからではない。成し遂げられたからだ」

活躍の源泉を追う 宮澤 崇史氏(レモネード・ベルマーレ監督/元プロ自転車競技選手)の場合 第3回(最終回)

文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:菅野 勝男 04.16.2015

母親に肝臓を提供しつつも第一線に復帰することに成功し、名だたる記録を残したプロの自転車競技選手、宮澤崇史氏。プロ意識を保ちつつも、「楽しむ」ことを実践し続けたアスリートの原点を探る。

前回からの続き、トップ画像の写真提供:宮澤氏、文中敬称略)

北京オリンピック出場に選ばれたのは、大会の4カ月ほど前。うれしさの反面、宮澤は開催コースの状況を知ってがく然とした。

「自分はどちらかと言えば平地コースを得意とするスプリントタイプの選手でした。しかし、オリンピックでの開催コースは、10キロメートルも続く坂を7回も登る山岳コースで、自分が得意とするコースではありませんでした。

『今の自分の実力では、世界の強豪たちと勝負にならない』とすぐにわかりました。でも選ばれた以上、なんとか好成績を残したかった。

今までにないくらいトレーニングを課しました。1日に、普通に200キロ、多い時で300キロを毎日のように走ったんです(笑)。自分でも、あれだけ坂道を上れたことはないくらいに鍛えました。気が付くと、体脂肪率とか3%ぐらいまで落ちていたんです(笑)。

でも、結局、オリンピックでは、それ以上のレベルの強者どもがたくさんいました」

宮澤の順位は、メダルから遠い86位だった。

しかし、当時の宮澤のインタビューに目を通していて感じられるのは、満足感だ。もちろん、プロとしては結果を出さなければ意味がない。だがそれでも宮澤のコメントからは「自分にとって大事なものは得られた」という心境が伝わってくる。

「実際、メダルや入賞を目指せるような実力ではないことはわかっていました。もしかしたらリタイアするかもしれないというようなコースだったんです。

ただ、『どこまで行けるか』ということだけを考えていました。そんな中で、残り1周半ぐらいまで先頭集団に付いていけたというのは本当にうれしかった。

自分でも『よくできた。頑張った』と思えました。成績ではない重要な価値をくれた、本当にすごく厳しいコースでした(笑)」

「勝負に勝った」よりもうれしい「成し遂げられた」

オリンピック出場後はイタリアと日本のチームに所属し、順調にロードレース界で活躍し続けられる環境が整った。

レースに出ることが当たり前の日々。その反面、目標がぼやけてきていたのも事実だった。

そんな中、友人たちが宮澤の32歳の誕生日パーティーを開いてくれた。2010年2月のことである。

「サプライズ・バースデー・パーティーだったんです。その時に、友人たちから『今年は何をするの?何を目指すの?』と聞かれたんです。その時は『俺、今年何をするんだろう?何を目標にするんだろう?』とはっきりしたものがありませんでした。

それでも、口に出てきた言葉は『今年は、日本チャンピオンになります』だったんです(笑)。

(2008年は)オリンピックにも行きました。でも自分の中に何か物足りないものを感じていました。『ツール・ド・フランスも追いかけたい。でもその前に、この全日本チャンピオンというタイトルを取りたい』と」

有言実行という言葉そのままに、宮澤はその年、目標に掲げた日本一のタイトルを手に入れる。広島で行われた第13回全日本自転車競技大会ロードレース。日本の頂点を決めるこの大会で優勝を飾った宮澤は、直後のインタビューで印象深い言葉を残している。

『勝ったからではなくて、成し遂げられたことをうれしく思います』

宮澤は言う。

「レース内では、ライバルの選手やチームが、様々な仕掛けをしてきます。だから、シミュレーションを通じて状況をどれだけ想定できるかどうかが勝敗のカギになります。

ライバルの攻撃が『あ、やっぱりそこで仕掛けてきたか……』と想定通りで、前向きにとらえることができれば、相手の『攻撃の一手』が自分にとっては実は『幸せな一手』になることが多いんです。もちろん想定外のこともたくさんありますから、その都度、対応していく力も身に付けておかなければなりません。

その年の日本選手権では、僕はチームのエースを任されていました。つまりゴールテープを切ることを託されていたんです。チームのみんなでシミュレーションし、想定外の事が起きても、その場で最適に対応できました。

その先に優勝があったんです。だから勝ったという満足感はもちろんなのですが、成し遂げられたという充実感の方が強かった。周りのライバルたちの力も、チームメートの力も、そして風などの自然の力なども、全てを味方にして、自分の力を出し切れたんです」

アサヒショップ鮮度パック