今、建築家とは、北京、ミャンマー、パリ、東京と、世界を1日置きに“転戦”する“格闘家”でもある。闘いの前線にひしめくのは、アメリカ、ヨーロッパだけでなく、中国、インド、アラブ、ロシアと台頭めざましい国の人々。その存在感は、日本にいるだけでは分からない。
建築プロジェクトの進め方も、全く異なるそれぞれの付き合い中から、建築家の隈研吾が実感するのが、ビジネスだけでなくエンターテインメントの世界でもこの国を席巻し始めている隣国の脅威。グローバル化に対するリアクションの歴然とした差から“旅人”がさびしく感じた日本人の本性とは──。
(取材構成は、清野由美=ジャーナリスト)
(前回の「中国は共産主義だけど、オーナー文化なんですよ」から読む)
今、隈さんのお仕事は、中国、ヨーロッパ、アメリカ、日本が、3:3:3:1の割合になっているということですが、もう少し詳しく国別にうかがいたいと思います。
隈:国でいうと一番多いのは中国ですね。その次がフランス。中国とフランスは似ているところがあるんです。それは、ほかの文化に対する許容度が広くて、リスペクトが強いところ。第1回で、「建築家は国際コンペというレースに出走を余儀なくされる競走馬だ」と僕は言いましたが、出走馬に対して一番手厚いのがフランスのレースなんです(笑)。
ワインとかシャンパンとかを飲ませてくれるんですか。
隈:そういう文化もあるけど、まず出走料金が付くんですよ。
それは大事ですね。
コンペの「出走料金」はフランスが断トツ
隈:世間はフランスもイタリアもイギリスも同じ「ヨーロッパ」でくくりがちですが、ヨーロッパでも、フランスとイタリアとイギリスとでは、コンペ(設計競技)のやり方が全く違います。
建築のクオリティーを確保するために、欧州連合(EU)では「ある規模以上の建築物の設計はコンペにしなさい」という基準ルールを設定して、コンペを経ないで公共建築を勝手に誰かに発注することはできないようになっています。でも、コンペに対する報酬体系は各国で全く違っていて、それはフランスが断トツで高いんです。
その中で、ヨーロッパの通貨危機を実感された場面はありますか。
隈:具体的に言えば、イタリアの仕事は、ほとんど止まっちゃいましたね。イタリアでは、ナポリのショッピングセンターのプロジェクトと、ミラノの北の方にある、水で有名なサンぺリグリノでのスパのプロジェクト、それと、ロベレートという街にある、19世紀の大きなタバコ工場をIT(情報技術)のビジネスパークにするリノベーション・プロジェクトがありました。イタリア人はめげないで、いずれ再スタートすると言っていますが、どれもスローダウンです。
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