不敗の構造

日本を代表するアニメーション映画の監督である押井守監督は、実は、組織マネジメントにおける「勝敗」についてずっと論じてこられました。たとえば『勝つために戦え!』(エンターブレイン)という本では、映画やゲームといったご自身に近い世界だけでなく、サッカーについても語っていらっしゃいましたね。
押井:もともと、「キーパー以外の選手は手を使っちゃダメ」くらいの、簡単なルールしか知らなかったんだけど、静岡人の奥さんに教育されたんです。そのうちにゲームの勝敗よりも「フットボールクラブとは、何を目的にした、どういう性格を持つ組織なのか」「監督が次々に交代になるのは、クラブのどんな状況や、条件によるものなのか」という方に興味が出てきて、いろいろ考えているうちに「サッカーの監督も映画監督も、基本的に考えていることはみんな同じだ」ということに気がついたんです。映画監督として30年ぐらいのキャリアの中で気がついたことがサッカーの監督についても結構ハマったんで、これは面白いと。
なぜすんなりハマったのでしょうか。

押井:それはつまり「監督は誰と勝負しているのか」ということ。監督をやっている人間でも意外とわかっていないというか、勘違いがあって、ことごとくみんな敗退していく。
映画監督というのは面白い商売で、自分が誰と勝負しているのかというのを絶えず考えていないと、映画が当たるとかいう以前に仕事が成立しないんです。でも意外に僕のまわりの、特に若い監督とかは全然わかってない。
観客とか、劇場動員数とか、DVDの売上とか、カンヌやアカデミー賞、あるいはハリウッドからオファーが来るとか…
押井:全然違う。そういう数字や評価を目的に戦う監督はほぼ間違いなく敗北します。
僕が30年監督をやってこれた理由は、ある意味で言えば「勝敗論」を持っていたから、それだけなんです。自分が勝敗論的にはかなり優れているというのがわかってからは、それを意識してそういう勝負を始めました。そして6年前から空手を始めて、武道における勝敗ってなんだろうと考え始めてさらにその思いを強くしたんです。
簡単に言うと「負けないこと」が一番大事。僕はそれを「不敗の構造」と呼んでるんですけど、勝つこと自体はたいして重要じゃないんですよ。勝負は1回じゃないから、1回の勝負なんてたいしたことないんです。
というわけで、映画監督とビジネスパーソンの間にはもちろん大きな違いがありますが、「仕事論」として読み替えていただくことは、決して難しくはないと思います。連載を通して「不敗の構造」をいかにご自身で培っていくかを、ぜひご検討ください。記事のラストでは、押井監督から「勝敗論」の参考になる映画の紹介もしていただきます。
たとえば誰でも知っている「あの監督」は勝ったのか?
ということでお話をお聞きしていくのですが、じゃあ、まず映画監督の世界で、成功者、勝ち組というと誰になるんでしょうか。
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