宮崎駿曰く「自分で“失敗した”とは絶対言うな」
前回に引き続き「飛べ!フェニックス」がお題です。リーダーがみんなに大きなリスクという秘密を隠し通し、結果的に生還できたというストーリーから「ウソやペテンはダメだが、勝つためには嘘にならない詭弁は弄しても構わない。最終的に勝てばみんなハッピーなんだから」というお話でした。
押井:勝負は勝つためにやるんだから、勝たなきゃ意味がないんです。だから勝つためには詭弁だって使うんです。例えば作った映画の評判が良くなかったとしても、監督は「とんでもないものを作っちゃった」とは言うかもしれないけど、「失敗した」とは絶対に言ってはいけない。これは宮さん(宮崎駿)に習ったんです。「自分で“失敗した”って言うな、口が裂けても言っちゃダメ」って。
ははぁ。
押井:「わけがわかんない作品」と言われても「わからない奴のほうがバカなんだ」って言い続けるんです。そりゃ難解な映画を作る監督だってレッテルを貼られる可能性はあるし、それは今後ハンディになるかもしれない。だけどアドバンテージにもなるんですよ。「難しいものを作るけど技術だけは超一流で、ちゃんと映画にしてみせる男だ」と。そういう言質を取れるかどうかなんだから。でも自分で「失敗した」と言ったら、その瞬間からその映画は失敗でしかない。
強弁すればいい、して損はないと。

押井:そのために「成功」の意味を何通りか用意しておけばいいんですよ。興行的に成功したのか、評価をもらったのか、「10年後には傑作になるんだ」と言い張るか。少なくとも自分で失敗作だと言っちゃダメ。
僕は昔、師匠(鳥海永行※注)にも同じようなことを言われたんです。
初号試写のあとは必ずみんな会議室に集まって「検定会」という会議をやるんです。初号で「これで納品してよろしいですか?」という商品の最終チェック。プロデューサーから配給会社から、偉い人が全員集まって会議をするわけ。これに現場から出られるのはラインプロデューサー(※注)と監督だけで、ほかのスタッフは誰も入れない。
初号試写のあとは全員が不安なんだよ。「本当にこれでよかったんだろうか、あの結末でよかったんだろうか、あの役者でよかったんだろうか、あの音楽の入れ方でよかったんだろうか、いまからでも編集をやり直させたほうがいいんだろうか」とかね。当然やり直せば千万単位でお金がかかる。でもそのリスクを冒してでもやり直せば、もしかしたら何億円単位の損失を防げるかもしれない。一方でそれをやることで、成功するものをみすみすダメにする可能性だってある。みんな何の根拠も持ってない。主観しかないんだから。
ということはどうやってやり直すかどうかを決めるんですか。
押井:これは師匠が言ったんだけど、実はその場で誰が最初に声を上げるかで決まるんです。僕の処女作の初号検定のときに、僕はまだ新米監督だったからオブザーバーで師匠がついてきていて、その師匠が第一声を上げたんだよね。「いやあ、よかった!」って(笑)。
鳥海永行
(とりうみ・ひさゆき/1941〜2009)アニメ監督、小説家。神奈川県出身。1966年タツノコプロ入社。72年に総監督に抜擢された「科学忍者隊ガッチャマン」が大ヒットとなる。1977年にタツノコプロに入社した押井監督は鳥海に私淑し、鳥海の後を追うようにスタジオぴえろに移籍し『ニルスのふしぎな旅』に参加した。
ラインプロデューサー
制作現場の作業の進行を管理するポジションで、現場の責任者の一人。宣伝や予算獲得など対外的な部分にはあまりタッチしない。
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