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ただ歩み寄っても中国との関係は改善しない

梶谷懐・神戸大学経済学部准教授に聞く【前編】

2012年11月2日(金)

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 対中関係の冷え込みは予想以上に影響が大きい。市民間の交流、経済的な動機付けなど、これまで関係を支えてきたチャネルが次々に力を失う中、有効な方策は何なのか。中国経済と社会制度に詳しい梶谷懐神戸大学准教授に聞いた。

(聞き手は山中浩之、以下Y)

Y:梶谷先生は、『「壁と卵」の現代中国論: リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(人文書院)で、日本人の中国の見方を3つに分類されていますね(196ページ)。

(1) 「脱亜論」的中国批判。
  中国は日本人には理解できない、しなくてよい「異物」、として見る。
(2) 実利的日中友好論。
  経済的な利益を得る対象として、友好関係を培うべき、と見る。
(3) 「新中国」との連帯論。
  中国の反体制派と協力し、日本の現状も変革していこうという、いわば同志として見る。

Y:この3つが、日本国内でぐるぐると主導権を奪い合っていると。

「壁と卵」の現代中国論: リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(人文書院)

梶谷 懐(かじたに・かい)
神戸大学大学院経済学研究科准教授。1970年4月生まれ。1996年神戸大学大学院経済学研究科修士課程修了。96~98年中国人民大学に留学(財政金融学院)。2010年より現職。現代中国における「市場経済化」と経済改革の動向(特に財政・金融部門)、経済発展における制度・慣習の役割(特に地方政府の行動と役割について)、中国の不動産市場をめぐる問題について関心を持つ。高校時代からの村上春樹ファンでもある。

梶谷:ええ。田中角栄首相の中国国交正常化以降、(2)が主導してきた日中関係が、冷戦終結や天安門事件きっかけに冷えはじめ、2004-2005年以降の一連の反日デモや暴動によって(1)の声が急激に大きくなった、というところですね。

Y:テレビやネットを通して暴動を見たときに、なんとも言えない、胃がむかつくような気分の悪さを覚えますよね。「この人たちはどうしてこう、我々に対してきつく当たるのだろう」という、いやな感じ。

 こういう状況では(1)は、胃酸過多を押さえる薬のような効き目があります。日経ビジネスオンラインでは読者の方にコメントを書いていただけるのですが、梶谷先生が仰る(1)の視点の記事を読んだ方からの声から受けるのは「これですっきりした」という印象なんです。

梶谷:「すっきり」ですか。

Y:ええ。「中国人は我々とは違う人々だから、行動や考え方が理解できなくて当たり前だし、我々が正しいのも間違いないんだな。もう気にしなくていいんだ。胃もたれが治った」みたいな。気持ちはすごくよく分かる一方で、その納得感がとても怖いんですよ。

「異質なものを排除する」恐ろしさ、気持ち悪さ

梶谷:ああ、なるほど。2004年から05年の状況であれば、本当に「気持ち悪い感じ」ぐらいで済んでいたものが、もっと得体の知れない、本当の恐怖みたいなものに変わってきている、と私も思っています。

 もちろん中国の社会の中に、日本というファクターを抜きにしてもああいう暴動が起こる原因があるのは確かだと思います。その認識自体は必要だと思うんですね。

 ただ、そこで納得して、「特殊な国だからだ」と終わってしまってはやはりダメだと思うんです。本にも書きましたが「集団で異質なものを排除する」という光景は、私たちの日本社会の中にも間違いなくある。その意味では他人事ではありません。だからこそ、集団になって「日本」と名のつくものを排除したり攻撃したりする様子を見て、気持ち悪く感じるのだと思います。

Y:とはいえ、具体的にどうすればいいのか。一方的にこちらが「君たちの国の事情は分かるよ」と歩み寄るのは…

梶谷:難しいですし、結局、相互理解は相互作用なので、こちらが変わろうと思って歩み寄る姿勢を見せても、相手の反応が返ってこないと、とても空しくなりますよね。

Y:おっしゃる通りですね。では、相互作用を触発するような考え方とか、行動ってあり得ますか。

「儲かるから」ではもう事態を変えられない

梶谷:非常に難しいですね。たとえば10月23日の東京新聞の社説で「中国の言論 もっと自由の風よ吹け」というのがありました。北京に住む女性作家の崔衛平さんらが「中日関係に理性を取り戻そう」という声明をネット上に発表したことを捉えて、日中の冷静な対話を行おうという動きが出ていることを評価する一方で、中国にもっと言論の自由を期待したい、という論調だったんですね。

 ただ、そうは言っても、市民同士の呼び掛けには、評価できる点ももちろんあるんですけど、現時点では限界も大きいと思っています。この動きは日本側からの呼びかけ(「領土問題」の悪循環を止めよう!――日本の市民のアピール――)に応えたものなのですが、このアピール自体ははっきり言って、旧来の護憲派の立場をそのまま受け継ぐような内容になっていて、領土問題と戦争責任というのをそのまま結び付けているわけです。こういう論調だと、まず日本の中では広い支持を得られないでしょう。

Y:そうですね。

梶谷:大きな意味はあると思うんですけど、事態を動かす力になっていくかというと疑問です。

Y:それでは、(2)はいかがでしょうか。個人的には日経の記者だからということではないんですが、「お互いにメリットがあって、お金が儲かります」という考え方には説得力を感じます。

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「ただ歩み寄っても中国との関係は改善しない」の著者

山中 浩之

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス副編集長

ビジネス誌、パソコン誌などを経て2012年3月から現職。仕事のモットーは「面白くって、ためになり、(ちょっと)くだらない」“オタク”記事を書くことと、記事のタイトルを捻ること。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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