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デフレは、賃金を下げ過ぎた経営者の責任だ

吉川洋・東京大学大学院経済学研究科教授に聞く

2013年3月29日(金)

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 近著『デフレーション――日本の慢性病を解明する』(日本経済新聞出版社)で、長引くデフレの原因を「イノベーションの欠如にある」とした吉川洋・東京大学大学院経済学研究科教授。そのイノベーションの欠如をもたらした元凶は、企業による正規雇用から非正規雇用への流れなどによる名目賃金の下落であると論じ、デフレの原因を「日銀の金融緩和が不十分だからだ」とする説に真っ向から反論した。さらには過去40年のマクロ経済学は「進化などしていなかった」と、最新のマクロ経済学を斬って捨てる。その真意について、さらに話を聞いた。

 (聞き手は広野 彩子)

ご著作『デフレーション』で、日本が停滞した原因の1つを、(合理化するための)プロセスイノベーションにこだわりすぎてモノ作りのイノベーションがなかったからだ、という趣旨で書いておられました。医療分野でのイノベーション、たとえば介護ロボットを開発するとか、需要創出型のイノベーションが大事というのは吉川先生の以前からの主張です。

吉川:そうそう。私の持論は、需要創出型のイノベーションなのです。リフレ派の人からは、間違っていると言われてしまうんですが。日本はデフレだから、とりあえずデフレを止めよ、というのがリフレ派の主張です。私も止められるなら止めよう、そこで技術進歩やイノベーションが必要だと言うと、それは供給サイドの発想だろうと批判される。つまり標準的な経済学で考えるとそれは供給サイドで、経済の天井を上げることだから、デフレギャップが広がることになると。

吉川洋(よしかわ・ひろし)
東京大学大学院経済学研究科教授。1974年3月東京大学経済学部経済学科卒業、78年12月米エール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。82年大阪大学社会経済研究所助教授、88年東京大学経済学部助教授、93年2月東京大学経済学部教授を経て現職。著書に『高度成長―日本を変えた6000日』(中公文庫)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学』(ダイヤモンド社)など多数。(写真:陶山勉、以下同)

需要はもう満たされているとして、需要はそのままで供給だけを増やすことだ、ということですね。

吉川:需要が今十分とすれば、経済の天井を上げるのだから、デフレギャップが広がってもっとデフレがひどくなるという話ではないかということです。需要不足は私も認めます。需要不足なら技術革新などと言うなというのが標準的な反応です。ただそれはちょっと違う、と私は思う。

 供給サイド、需要サイドという整理自体に限界がある。革新的なモノを生み出すプロダクトイノベーションはある種、供給サイドと言えるのですが、それがこれまでになかった新たな需要をつくるでしょう。逆に言うと、狭い意味でのケインズ経済学は、需要をつくると言った時、どれほど持続可能な需要かについて何も語らない。

 確かに道路に穴を掘って埋めても需要は生まれるけれども持続可能ではない。大仏を作るとか、何かを造成すると言ったって、単発で終わりです。私の言う需要創出型のイノベーションは、もっと持続性のある、介護や医療など成長分野でのプロダクトイノベーションで経済を引っ張っていくという話です。

日本からなぜiPhoneが生まれなかったか

需要創出型のイノベーションといえばiPhoneなどがいい例でしょうか。なぜ日本で生まれなかったのかと。

吉川:それが、日本企業が効率化でコストを切り詰める「プロセスイノベーション」ばかりをしていたからなのです。

 バブル崩壊後、日本企業は雇用、設備、債務の3つの過剰を抱えていると言われていました。設備と債務はともかく、人で、とにかく人件費を削った。その頃から中国をはじめ、アジアの国と競争がさらに激しくなるというのでコスト抑制を続けてきた。原材料費削減や合理化といったこともあるでしょうが、コストの本丸は人件費です。

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「デフレは、賃金を下げ過ぎた経営者の責任だ」の著者

広野 彩子

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日本経済新聞社NAR編集部次長

朝日新聞記者を経て日経ビジネス記者、2013年から日経ビジネス副編集長。日経ビジネスオンラインでコラムの執筆・編集を担当。入山章栄氏の著作『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』を担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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