ラーメンが世界中で人気だ。この日本人の国民食は、いかにして世界に広がったのか。英ケンブリッジ大学の歴史学者でラーメン研究家のバラック・クシュナー准教授は、「ラーメンはサンドイッチなどと同じ“プラットフォーム・フード”だからだ」と指摘する。
(聞き手はローラ・スカーレット)
昨年、ラーメンの歴史を研究した成果を著書『Slurp! A Social and Culinary History of Ramen』 にまとめました。まず、なぜ、「ラーメン」を研究テーマに選んだのですか。

英ケンブリッジ大学准教授。近現代の日本史を教える。昨年、ラーメンの歴史を研究した著書『Slurp! A Social and Culinary History of Ramen』を出版した。
クシュナー:私が日本と初めて出会ったのは、20代中頃でした。当時は日本経済が絶好調で、日本が世界一とされた時代です。その頃、日本に対しては、ステレオタイプなイメージが米国で広がっていました。「日本人は生魚を食べる」「日本食は、ぬめっとしていて気持ち悪い」といったものです。ほとんどの欧米人にとって、日本食は奇妙な食べ物でした。
25歳のときに初めて日本を訪れ、岩手県の小さな漁村で生活することになりました。私は米国の東海岸で敬虔なユダヤ教徒の家庭で育ちましたから、それまで魚をほとんど食べたことがありませんでした。正直、魚は嫌いで、とにかく気持ち悪かった。生臭いし、イカやタコには奇妙な足がたくさんあるし、グロテスクに見えました。
しかし、ある晩、私の人生を変える出会いがありました。仕事仲間と夜中まで飲み、家に帰る途中、彼らが「ラーメンを食べに行こう」と言ったのです。「ラーメンって何だ?」。私は興味をそそられました。
「これが日本食か!」とラーメンの味に衝撃を受ける
私たちは、小さなラーメン店に行きました。全員酔っ払っていましたが、朝3時にラーメンを食べたのです。肉を煮込んだ、コクのあるスープに麺。その味は素晴らしかった。それは、私が食べ慣れている味、つまり欧米料理の「肉煮込みスープ」に、ちょっと似ていたのです。「これが日本食?私はウソを教えられてきた!」と思いました。日本食に、このような一面があったなんて、その時まで知りませんでしたから。
日本食には、「ラーメン」と「伝統的な和食」という極端に違う2つの料理が同時に存在しています。「いったい、どういうことか」と興味を持ったのが、そもそもラーメンを研究し始めたきっかけでした。そして、なぜ、ラーメンがここまで広がったのか、という疑問がわいてきたのです。
なぜ、日本でラーメンはこれほどまでに人気の料理となったのでしょうか。
クシュナー:私は、日本でラーメンが広がった理由は、2つあると考えています。1つは、1958年にインスタントラーメンが発明されて以来、ラーメンは日本の大衆文化の要素として組み込まれてきたことです。飲み会の後に食べたり、ランチに友人と食べに行ったり、家でインスタントラーメンを食べたり、ラーメンは日々の食生活の一部となりました。テレビではインスタントラーメンのCMが流れ、通りでは各地方発祥のラーメン店が人気を競い、ラーメンをテーマにしたマンガやテレビ番組、音楽まで登場しています。こうした現象は、ほかの日本料理ではあまり見られません。
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