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死んだふりは有効な生存戦略だった

「今は決めない」「一番手にならない」…進化生物学が解明する生きる知恵

2014年4月4日(金)

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 昆虫から哺乳類まで数多くの生物が行う「死んだふり」は生存のための有効な戦略だった。他者を利用して生き延びる、動かずに決断を先送りする…進化生物学が解き明かす様々な生存戦略を、岡山大学大学院の宮竹貴久教授に聞いた。

(聞き手は秋山知子)

まず、宮竹先生のご専門である進化生物学という分野が、近年これほどまでに新しい成果を上げ続けているということに驚きました。

宮竹:進化生物学自体はダーウィン以降に始まった比較的古い学問分野です。以前は、「生物というのは種の保存のために頑張って生きている」という考え方だったんですが、1970年代に「種ではなく個体、遺伝子が中心である」という考え方が生まれました。リチャード・ドーキンスが提唱した「利己的な遺伝子」ですね。それでものの見方が180度変わってしまって。1980年代には日本でも進化生物学のコンセプトが大きく変わりました。

 生物の行動や姿かたちを遺伝子レベルで考えていく。最近はさらに、分子レベルで解明していく学問も生まれてきました。

宮竹先生の前作である『恋するオスが進化する』は昆虫のセックスに焦点を当てたもので、全く知らなかった虫の新事実で目くるめく内容だったんですが、今回出版された『「先送り」は生物学的に正しい』では、進化生物学が解き明かした生物の行動や生存戦略を人間社会になぞらえています。

 例えば「捕食者と被食者」の関係を、「上司と部下」になぞらえてますが、これはいいんでしょうか?

宮竹 貴久(みやたけ・たかひさ)
岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。理学博士。1962年、大阪生まれ。沖縄好きの父に連れられ中学時代から沖縄を訪れて昆虫を採集する。86年、琉球大学大学院農学研究科を修了後、沖縄県職員として勤務。97年、ロンドン大学生物学部客員研究員。2008年より現職。(写真:後藤 健治)

宮竹:まあ、それは半分冗談と思っていただいたほうが。ただ私も管理職を経験して、同時に誰かの部下でもあって、組織の人間関係を見るにつけ「これは生物の行動に似てるじゃないか」と思うわけです。もちろん人間は昆虫や鳥と同じ行動は取れませんがパラレルというか、似たような状況はあります。潜伏してじっと動かないとかね。

 この学問分野は本当に最近面白いことがいっぱい出てきてるんですけども、ある大学の教養課程で生物学の講義を数年間担当したことがあって、それが今回の本を書こうと思ったきっかけの一つになっています。

 例えば岡山大学の専門課程で生物学を学びたい学生であれば、講義をすると皆ちゃんと聞いてくれます。ところがそこは文系の大学で、しかも一般教養でただ単位を取るためだけに来ている学生ばかりなので、普通に講義するともう15分も持たないんです。メールしたりおしゃべりしたり、立ち上がって出て行ってしまったりするわけです。

 じゃあどうしたら興味を持ってくれるかと考えたんですが、自分のことと結びつけて話すとすごくよく聞いてくれるんですね。

 例えばクリスマスが近づいてきたら、「みんな、もうクリスマスプレゼントは考えた?」と切り出すわけです。そして「実は、虫もプレゼントを贈るんだよ」と。

(注:オドリバエはオスが尻から出す糸で獲物をラッピングしてメスに渡して交尾をする。中には、小さいエサを糸でグルグル巻きにして大きく見せかけ、メスをだます例もある)

 「君らも、大きいプレゼントを渡したほうが恋人が喜ぶんじゃない?」とか話すと、食いつきがいいんですよ。そういう話を10分に1回ぐらい入れていけば興味を持ってくれるんですね。そんな経緯もあって、一般の人に生物学の最新の知識を興味深く伝える本を書こうということで、仕事の空き時間や週末を使ってまとめたんです。

 もう一つのきっかけは、まじめに頑張っている若いサラリーマンにエールを送りたいという思いです。上司の言うことに何でも即座に全力で取り組むだけでは疲れてしまうこともあるでしょう。そういう時、生物の生き延びるための知恵に思いを馳せて、彼らの知恵を使ってつらい時期を踏ん張ってほしいと思ったのです。

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「死んだふりは有効な生存戦略だった」の著者

秋山 知子

秋山 知子(あきやま・ともこ)

日経ビジネス副編集長

1986年日経BP社入社。日経コンピュータ、日経情報ストラテジー、日経アドバンテージ、リアルシンプル・ジャパンの編集を担当。2006年から現職

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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