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中年以降の心を強くする若い頃のモラトリアム

姜尚中氏に聞く心の力の付け方と漱石の『こころ』

2014年5月30日(金)

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 夏目漱石が小説『こころ』の新聞連載が始まったのは、今からちょうど100年前の1914年4月。今年度から大学を率いる立場となった姜尚中氏は、著書『心の力』で漱石の『こころ』とトーマス・マンの『魔の山』を引き合いに出しながら、心の力とは何かを問うている。

 小説『こころ』の執筆に先立ってロンドンに留学し、当時のグローバリゼーションを目の当たりにした漱石。姜さんは小説には漱石が見たグローバル化に対する思いが色濃く表れているという。姜さんに、小説『こころ』の魅力と心の力について聞いた。

(聞き手は飯村 かおり)

姜さんは、先ごろ、イギリスに行って夏目漱石の足跡を訪ねられたそうですね。漱石がロンドンに留学したのは1900年です。姜さんは、漱石は当時のロンドンでどんなことを感じたと思いますか。

姜尚中氏(以下、姜):当時は大英帝国が少し傾きかけてきたけれどもまだ余韻があった時代です。1902年は日英同盟調印の年。また、漱石はロンドンに行く途上で、パリ万国博覧会へも行っています。現代で言えば、日米安保締結に向かっていくような時代の転換期に、漱石は世界を見てしまった。

姜尚中(かん・さんじゅん)氏
聖学院大学学長。1950年生まれ。東京大学名誉教授。専攻は政治学・政治思想史。著書に『悩む力』『続・悩む力』のほか、『マックス・ウェーバーと近代』『ナショナリズム』『母―オモニ―』『』など多数。近著に『心の力』(写真:陶山勉、以下同)

 今の日本もそうですが、当時も日本にはモデルがなかった。とはいえ、漱石はイギリスはモデルにならないと思っていました。どうも人間を幸福にしないようだと思った。そして、グローバリゼーションに行くしかないが、それ以外のオルタナティブもないということを見切ったのです。

 現在もリーマンショックなど世界的な金融危機が起きた後、グローバル化が必ずしもバラ色ではないということが分かったわけですが、グローバル化は避けられない。これを受け入れていくしかありません。

 漱石の時代も同様です。グローバル化を受け入れるしかないけれども、もっと違う生き方があるのではないか。これが漱石の小説のみそでしょう。

都市型サラリーマンと不労所得者の悲劇を描く

姜さんは近著『心の力』で、『こころ』という小説は、「全編に死が満ち満ちた『デス・ノベル』です」と指摘しています。『こころ』には、漱石のどんな思いが反映されていると思いますか。

小説『こころ』のあらすじ

 「先生と私」、「両親と私」、「先生の遺書」の3つの部分からなる夏目漱石の長編小説。「私」はある男性に出会い、その人物を「先生」と呼んで親しく行き交う仲となる。「先生」は職を持たず、妻と2人で静かに暮らしている。大学卒業後、私は故郷の父母のもとに帰り、病身の父親を見守りながら時を過ごす。そんな時、東京の先生から私宛てに手紙が届く。私は病気の父親のもとを離れ、東京行きの汽車に飛び乗る。先生の手紙の内容は、「先生の遺書」の部分で明かされる。そこには、先生が受けた親戚の裏切り、下宿先のお嬢さんをめぐるKと先生の“三角関係”、そしてKの自殺という先生が妻にも秘密にしていた過去が書かれていた。

:『こころ』は、先生と主人公の私の出会いが神奈川県の鎌倉です。なぜ鎌倉かと考えて調べたところ、当時、由比ヶ浜の近くにはサナトリウムがあったようなのです。結核といえば、当時は即、ゆるやかな死につながっていました。由比ヶ浜には、日常のせわしさとは違う世界、観光地という側面だけでなく、普通の人が近づけないこの世ならぬ世界と紙一重の世界という面もあったのでしょう。

 一方、当時は都市型の給与所得者、サラリーマンの走りの時代です。そして学歴があるけれども“博士にも大臣にも”なりきれない人、ある程度お金があるニート、余計者ですね。自らは働かない不労所得に寄生して生きている人。漱石は高等遊民と言っていますが、彼らに共感を抱きながら、最後に必ず悲劇を用意しているのです。

 漱石は、都市型の中間層や疑似インテリ的な人たちの苦悩を描いています。『こころ』は、先生が自ら死を選ぶわけですから、その中でも深刻な部類です。

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「中年以降の心を強くする若い頃のモラトリアム」の著者

飯村 かおり

飯村 かおり(いいむら・かおり)

日経ビジネスクロスメディア編集長

2007年より「日経ビジネスオンライン」編集部に在籍。信頼できるおもしろいコラムを世に送り出すことを楽しみにやってきましたが、2015年よりクロスメディア編集長となり、ネットから紙の世界へ転身。書籍などの編集に携わっています。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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