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「過労死」が減らないのはなぜか

森岡孝二・関西大学名誉教授に聞く

2014年6月17日(火)

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 超党派議連が提出した「過労死等防止対策推進法」の成立が近い。国として、過労死や過労自殺の拡大を食い止めることを目的とした法律だ。

 「ブラック企業」がクローズアップされてはいるものの、ニッポンの高度成長を支えた「モーレツ主義」は以前に比べれば薄まり、働き方は多様化しているはず。それにもかかわらず、過労死問題は解消に向かうどころか、より深刻になっている。

 日本社会の働き方について長年研究し、過労死問題に警鐘を鳴らし続けてきた森岡孝二・関西大学名誉教授に、なぜ過労死が減らないのかを聞いた。

(聞き手は熊野 信一郎)

森岡さんは長年、過労死の問題に警鐘を鳴らし続けてこられました。近く成立する見込みの「過労死等防止対策推進法」にはどのような意味があると考えておられますか。

森岡:過労死防止法はあくまで理念法です。具体的な措置は盛り込まれておらず、現行の労働関係の法律よりも踏み込んで、何かを制限することは想定していません。 

 それでも「過労死」という言葉が入った法律が成立することの意味は少なくありません。これまで、厚生労働省もこの問題に取り組んできて、いろいろなキャンペーンを実施してきました。それでも、主に使われる表現は「過重労働」でした。法律が成立することで、改めて過労死問題の深刻さを広く認知してもらい、一歩踏み込んだ対策が出てくることを期待しています。

森岡 孝二(もりおか・こうじ)
1944年大分県生まれ。1966年香川大学経済学部卒業、1969年京都大学大学院博士課程退学、1972年大阪外国語大学講師、1983年から関西大学経済学部教授。企業社会論や労働時間論が専門。主な著書に『就職とは何か』(岩波新書)、『貧困化するホワイトカラー』(ちくま新書)、『働きすぎの時代』(岩波新書)など。今春、関西大学を退職したが、今後も日本における働き方、「雇用身分制度」などについて研究を続けていく。

具体的に、どのようなことが期待できそうですか。

森岡:第一歩として、政府の責任においてきちんと実態を把握することを進めるべきでしょう。それがあって初めて、具体的な対策が検討できるようになります。

現状、実態が把握できていないということでしょうか。

森岡:これまで公式には、労災の申請件数が過労死の実態を示すデータと位置づけられてきました。それで見てみると、例えば「脳・心臓疾患を原因とする過労死」の件数は1999年の493件から2012年には842件にまで増えています。

 ただこの数字だけ見ると、この10年くらいは横ばいで、深刻さが見えてきません。問題なのは、「過労自殺」が増えてきていることです。

 同じ期間、精神障害などを原因とする過労自殺の件数は、155件から1257件へと劇的に増えています。ここに病巣があると考えます。日本では一般的に、身内の自殺は伏せる傾向にありますね。過労自殺は90年代にようやく労災として認められるようになりました。それでも依然として、遺族が労災を申請していないケースが少なくありません。遺族にも「会社にお世話になった」という意識が強いのか、泣き寝入りする傾向があるのではないでしょうか。

 日本では毎年、3万人前後の自殺者が出ています。そのうち2千数百人が、「勤務問題」を原因としています。それらのうち、どの程度のケースが過重労働と関連するかはわかりませんが、実際はかなり多いのではないかと推察されます。

統計に出てこない過労死が相当な数あると。

森岡:先日、過労死防止法案に関する議員集会がありました。そこで、多くの議員が「地域の支持者や身内に過労死がいる」と話していました。授業で学生に「過労死した親戚や知り合いがいるか」と聞いても、かなりの数がいて、詳細に話してくれます。統計に出てきている件数は、全体の一部に過ぎないと考えるほうが自然でしょう。

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「「過労死」が減らないのはなぜか」の著者

熊野 信一郎

熊野 信一郎(くまの・しんいちろう)

日経ビジネス記者

1998年日経BP社入社。日経ビジネス編集部に配属され製造業や流通業などを担当。2007年より日経ビジネス香港支局に異動、アジアや中国に関連する企画を手がける。2011年11月に東京の編集部に戻る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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