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他人を信用するのは、実はラクだからである

漫画家 ヤマザキマリさん 第2回

2014年8月12日(火)

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ヤマザキマリ
1967年東京都生まれ。1984年、高校2年の時にイタリアへ渡り、フィレンツェのイタリア国立美術学院で油絵と美術史を学ぶ。96年に帰国し、大学のイタリア語講師、札幌テレビ放送の温泉レポーター、日伊協会の事務局及び美術展のキュレーターなどを務める。2002年、イタリア人の比較文学者、ベッピ・キウッパーニとの結婚を機に、エジプト・シリア・ポルトガル・アメリカなどに暮らす。04年、婚家のユニークな家族を描いた『モーレツ! イタリア家族』から漫画執筆を本格化。10年『テルマエ・ロマエ』が「マンガ大賞2010」「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞。単行本は累計900万部以上の売り上げを記録。同作を原作にした邦画「テルマエ・ロマエ」「テルマエ・ロマエII」も大ヒット。その他の作品に「ルミとマヤとその周辺」「スティーブ・ジョブズ」「プリニウス」(とり・みき氏と合作)等、エッセイでは「テルマエ戦記」「望遠ニッポン見聞録」「男性論」等がある。(写真:鈴木愛子、以下同)

―― ヤマザキさんは、留学先のフィレンツェで「詩人」と恋に落ち、貧乏がこじれていったということですが。

ヤマザキ:フィレンツェは家賃が高いので、学生たち数人でアパートを借りて、シェアします。でも、みんなそれぞれ貧乏なので、タイミングが悪かったりすると、誰も電気代を払えなくなって、インフラが止まっちゃうんですよ。電気つかない、ガスつかない、風呂に入れない、寒い。で、ろうそくを灯して温まる。もう屋内マッチ売りの少女ですよ。

―― そういう時はどうするのですか。

ヤマザキ:いよいよヤバい、となった時は街に出て、似顔絵描きで日銭を稼ぎました。アパートでは、親鳥を待つひな鳥のように、お腹を空かせた仲間たちが私の帰りを待っている(笑)。

 こじらせた貧乏のエピソードには事欠きませんね。アパートに物乞いに来たおじさんが、ドアを開けた私の姿を見て、はっとしながら、「悪かったな、あんたもがんばれ」と逆に励ましてきたり、日本人観光客が露店の店番をする私を見て、「出稼ぎかな、どこの国の人だろう?」とつぶやいたり。

 詩人とは2人でアパートを転々としましたが、家賃を滞納して、目の前で大家に玄関の鍵を取り換えられて、夜の駅でひと晩を過ごす、なんてこともありました。フィレンツェで私たちが出入りしていた書店は、階級闘争や人権もみんなのテーマだったので、家主に対して「我々は不当に高い家賃を払わされている気がする」と、訴訟も何回か起こしました。おかげで、はじめは全然できなかったイタリア語が、散々な苦労を乗り越える度に、ぐんぐん上達していきましたね。

―― 語学上達の極意は生活苦だ、と。

ヤマザキ:過ぎ去ってみればまあ、若者らしい鼻息の荒さだったな、と思いますが、ふとした時に、「何で私、イタリアでこんなことしているんだろ」とは、しょっちゅう思っていましたよ。

「人を信じない」エネルギー

ヤマザキ:一番の問題は、詩人がいっこうに仕事をしなかったことですね。私の母からの仕送りも悪びれずもせずに、あっという間に使っていました。彼は幼少期をお金に困らずに過ごして来たせいで、働かなければという意識が欠落していたのです。私だって勉強があるのに手をつけられず、仕事で疲れてお腹が空けば、精神的にストレスもマックスになります。そういう時は、「こいつをアルノ川に突き落としてやろうか」と、本気で思いました。それこそ「ゴッドファーザー パート1」に出てくるコニーじゃないですけど、机の上にあるものを全部ぶちまけたりとか。

―― ……共依存的な状況ですね。

ヤマザキ:それで、十何軒目かの家を追い出されそうになった時に、ついに私は住民権を軸に訴訟を起こしたんです。イタリアでは住民法によって、不当な家賃を払っていた場合、国の基準である金額に定めてもらうことができるんです。でも面倒だから、みんな多少不条理だと思っても、大家さんの言い値で我慢して払っている。私もずっとそれで我慢してきましたが、そういう法律があると知ったらやはり泣き寝入りはできなくなりました。

 私だって訴訟を楽しんでいたわけではありませんし、しかもその時の訴訟相手の大家さんは、美術学院の恩師だったんです。その先生からは「まさかマリが訴訟を起こすなんて、思いもしなかった、ショックだ」と言われて、確かにこんな顛末になってしまって本当に申し訳ないと思いましたが、こっちも必死で働いているにもかかわらず一歩間違えればホームレスになるかならないかで、切羽詰まっているから引けません。でも何よりも、法で設定されている家賃の2倍以上を払っていると知ったときは、いくら恩師でも黙っているわけにはいかないと判断したのです。「先生ごめんなさい。でも私、本当にもう引っ越しは勘弁なんですよ、せめて今より人道的な家賃でやりくりさせてください」とやり合って。

―― いやはや。

ヤマザキ:ちょっと話が逸れますけれども、イタリアの面白さって、実はこういう場面にも表れるんです。

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「他人を信用するのは、実はラクだからである」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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