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絵が「経済」と結びついた時代に、金は無価値と知る

漫画家 ヤマザキマリさん 第4回

2014年8月26日(火)

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 フィレンツェでの「社会不適応詩人」との暮らし→シングルマザー→帰国して7足のわらじ→14歳年下のイタリア人男性と再婚……と、人生が変転する中で、漫画家として活動を始めたヤマザキマリさん。遠くリスボンの地で「私は無名のまま、この仕事を続けていくのだろう、でも、こういう暮らしも実は心地よい」と、やっと穏やかな気持ちになった時に、今度は『テルマエ・ロマエ』の大ヒットという怒涛が押し寄せます。

ヤマザキマリ
1967年東京都生まれ。1984年、高校2年の時にイタリアへ渡り、フィレンツェのイタリア国立美術学院で油絵と美術史を学ぶ。96年に帰国し、大学のイタリア語講師、札幌テレビ放送の温泉レポーター、日伊協会の事務局及び美術展のキュレーターなどを務める。2002年、イタリア人の比較文学者、ベッピ・キウッパーニとの結婚を機に、エジプト・シリア・ポルトガル・アメリカなどに暮らす。04年、婚家のユニークな家族を描いた『モーレツ! イタリア家族』から漫画執筆を本格化。10年『テルマエ・ロマエ』が「マンガ大賞2010」「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞。単行本は累計900万部以上の売り上げを記録。同作を原作にした邦画「テルマエ・ロマエ」「テルマエ・ロマエII」も大ヒット。その他の作品に「ルミとマヤとその周辺」「スティーブ・ジョブズ」「プリニウス」(とり・みき氏と合作)等、エッセイでは「テルマエ戦記」「望遠ニッポン見聞録」「男性論」等がある。(写真:鈴木愛子、以下同)

―― イタリアでの耐乏生活で、崖っぷちまで追い詰められた後に、日本へ帰って漫画家デビューしたヤマザキさんの人生にやってきたのが、自作の大ヒットで桁違いに収入が増える日々でした。

ヤマザキ:「日経ビジネスオンライン」の「とりマリの当事者対談」でいろいろお話をしましたが、売れたから万歳、なんて感じているゆとりはほとんどなく、売れたことによる、苦労の波にひたすら飲み込まれて行く感じでした。

 率先して自分の収入とかお金についてしゃべりたい気持ちは全然ありません。でも、あえて語らせてもらいますと、私の場合、大勢のヒット作を出した作家の方たちのように人知れずお金が入ったんじゃなくて、「単行本の累計が900万部を超えました、映画が大ヒットしました」と、世の中のみなさんに向かって事態が公に知らされたわけじゃないですか。

―― はい。

ヤマザキ:中でも最初の映画の興行収入が60億円に迫る、というのは、ものすごいインパクトで、「だったら、ヤマザキさん、どんだけ稼いだのよ、ひぇー」みたいな感じで、世の中に伝わっていったわけです。

―― 宝くじが当たって、かつ名前が公表されたような。

ヤマザキ:名前が公表されないだけ、宝くじが当たった方が全然楽だったんじゃないかと思います。とにかく、映画の興行収入と原作料の乖離については当然、みなさんの知るところではないので、その影響は私だけじゃなくて、家族にも出た。

 遠く離れて暮らす母は、「そんな古い車じゃなくて、お嬢さんに、もっといい車を買っていただいたらどうですか? 映画でもヒットしているし」と、近所の方から言われたそうですし、夫は勤め先のシカゴ大学で「お前の妻のニュース見たけど、研究なんて、もうやめたら? 妻のカネで食っていけよ」と、同僚に言われたと、激怒して家に帰って来たことがありました。

お金で幸せになれる人も、なれない人もいる

―― 言ってる方に悪気はないのでしょうが、余計なお世話ですよね。

ヤマザキ:悪気が混じっていることもありましたよ。アメリカの大学に通う息子は、日本から来た留学生に「お前は母親が金持ちなんだから、何かおごれ」みたいに言われるようになったし、とにかく人とのコミュニケーションが、「お前んとこ、映画がヒットして、本も売れて金持ちになったよな」が中心になっていく。そんな成り行きに、気絶しそうになるくらい嫌悪を感じていました。

 ガルシア・マルケスという大好きな作家がやはり、「『百年の孤独』という作品がヒットしたお陰でいろんなことが最悪になってしまった、ただその苦しみが分かるのは当事者だけなんだ」、というようなことをインタビューで応えているのを見て、「ああ本当にそのとおりだ」と痛感しました。(注・『グアバの香り』という本です)

―― 窮乏生活と、他人から嫉妬されるという両極を体験して、ヤマザキさんのお金観は変わらなかったですか。

ヤマザキ:全然変わりませんでした。お金が入ってきたからって、立派な車を買おうとも思わなければ、お屋敷を建てたいとも思わない。私は、そんなもので幸せになるタイプじゃないし、そういう育てられ方もしませんでしたから。

―― お金では幸せになれない。本当ですか。

ヤマザキ:本当です。老朽化した母の家を改装することができたとか、子供を大学にやるための多額の借金を回避できたとか、そういう意味では本当に助かったと思っていますが、お金のありがたみを感じたことといえば、それくらいです。お金によって私自身の精神性が満たされたかというと、それはまったくない。そう言い切れる体験が私の中にあるからです。

 母は裕福な家に育ちながらも、あえて自分の好きな仕事をするために清貧な暮らしをしていた人だし、そういう環境に育ったせいで、お金に対する期待とか、特別な喜びみたいなものが育まれなかった。それに加えて、私には“お金=幸せ“ではないと言い切れる決定的な経験もありますから。

 前にも話しましたが、かつてイタリアで困窮生活をしていた時、キューバに労働ボランティアに行っていたんですよ。

―― ご自身がカツカツの暮らしをしていたのに?

コメント8件コメント/レビュー

キューバでひもじい思いをしながらボランティアとはまた・・・。「なぜ一日一本のコッペパンに甘んじて、買いたい皿も買えない生活しかできないのか?」みたいなことをフシギに思わなかったところはやはりゲージュツ家。(2014/08/26)

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「絵が「経済」と結びついた時代に、金は無価値と知る」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

キューバでひもじい思いをしながらボランティアとはまた・・・。「なぜ一日一本のコッペパンに甘んじて、買いたい皿も買えない生活しかできないのか?」みたいなことをフシギに思わなかったところはやはりゲージュツ家。(2014/08/26)

しかし共産主義のキューバの地で「富める者が天国の門をくぐるのは、ラクダが針の穴をくぐるよりも難しい」という聖書の言葉を地で行く体験をするとは、デウス様とマルクスの皮肉でしょうか・・・(2014/08/26)

相変わらず、マリさんのお話は面白いですね。感じ入っております。私は本物、本当のことを見たり聞いたりしないと人は進化しないと思ってます。本当の貧困というものを目の前にされた経験は尊いものですね。文化の違いは夫婦、友人、会社の中でも感じてます。我が家は私の沈黙で夫婦関係は保たれてます。文化の違いは生きていく方向の違いともなります。これはお互いに認め合うことが大事ですね。でも、そうはならないですね。会社では文化の違いとして、余りにもみんな幼すぎて伝わりません。これも沈黙で保たれてます。私は自身のライフワークとなるものを作り出すことを、これからの生き方にしてます。我が道を進む、です。(2014/08/26)

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夢の実現にあたっては強く「念ずる」。そうした心構えを支えにビジネスの世界の荒波を渡ってきました。

後藤 忠治 セントラルスポーツ会長