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「5歳までのしつけや環境が、人生を決める」

ノーベル賞経済学者、ジェームズ・ヘックマン教授に聞く

2014年11月17日(月)

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 1972年に米国で実施されたアベセダリアン・プロジェクトという、平均生後4.4カ月のアフリカ系アメリカ人の貧しく家庭に問題を抱えた子供約100人を対象にした研究がありました。子供たちを2つのグループに分け、一方には教育活動をせず、一方のグループだけに最新の教育理論に基づいた、ゲーム形式の継続的な教育的な介入を施しました。このグループは5歳まで週に5日、保育施設で一緒に介入を受けました。健康管理や行政サービスは、教育を受けないグループも同じように受けました。

 幼児期にこうした教育的介入をした人たちの追跡調査を続けて分かったことは、幼少期にきちんと教育的な介入を受けていれば、30代になった時のIQが平均してより高くなり、その後も高いままであり続けるということでした。さらに重要なのは、影響がIQだけではなかったことです。より学校の出席率や大学進学率が高く、スキルの必要な仕事に就いている比率も高く、一方、10代で親になっている比率が低かった。犯罪行為に手を染める比率も減りました。

つまりIQだけでなく、潜在能力も高めていたと。

IQを高められるのは幼児期だけ

ヘックマン:20代で集中的な教育を施しても、幼児期ほどIQを高めることはできません。とはいえ問題に真剣に取り組む力や周囲とうまくやっていくスキル、1つのことを続けられる持続力などの潜在能力は高められるかもしれません。

 IQが示すようなテストを解く能力は、人生の諸問題を解決する能力と同じではありません。現実に直面する試練は、多くの異なる特徴を合わせ持っているからです。だからこそそこで、IQでは測れない忍耐強さや自己抑制力、良心が重要な役割を果たすのです。高いIQが必ずしも高次元の人生をもたらすわけではなく、一番重要なのは「良心」だと私は思います。コンサルティングの仕事を辞めてニューヨークの公立学校で数学を教えた心理学者のアンジェラ・リー・ダックワース氏はこうした力をグリット(grit、やり抜く力)と呼びました。人生において重要な特性だと思います。

5歳までの環境で育て得る特性とは、どのようなものですか。

ヘックマン:先ほども研究についてご紹介したように、人生の最初の数年はとても重要な役割を果たします。幼児期の適切な教育は、潜在能力の基盤を広げるのです。誰もが万能だとは決して申し上げませんが、モーツアルトのような大変な能力を秘めた人もいるわけです。モーツアルトは、常人とは違う形で音楽を理解していました。モーツアルトまではいかなくても、事実としてとりわけ若者にはこうした「可能性の富」があるわけです。その人が望み、実現し得る最高の機会を(社会が)きちんと与えることができないだろうか。それが私の追求している問いなのです。

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「「5歳までのしつけや環境が、人生を決める」」の著者

広野 彩子

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日本経済新聞社NAR編集部次長

朝日新聞記者を経て日経ビジネス記者、2013年から日経ビジネス副編集長。日経ビジネスオンラインでコラムの執筆・編集を担当。入山章栄氏の著作『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』を担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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