ヘルスケアを「コスト」から「投資」へ。病気になってから病院へ、ではなく、病気にならないように予防する、重病にならないために対策する。それが結果的に、コスト削減と、病気にならずに元気でいられる人を増やすことにつながる。山本雄士さんはそう考えて「ミナケア」を創業したそうだ。東大医学部卒の医師で、ハーバード大学ビジネススクールのMBAを取得。超エリートはいかにして起業に至ったか。カジュアルな言葉で医療制度への問題意識を熱く語る山本さんの言葉に、聞き入った古市さんでした。
(中沢明子:ライター/出版ディレクター、本連載取材協力・構成)

ミナケア代表取締役
1974年札幌市生まれ。1999年東京大学医学部を卒業後、同付属病院、都立病院などで循環器内科、救急医療などに従事。2007年Harvard Business School修了。独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー、内閣官房医療イノベーション推進室企画調査官などを歴任し、現在はソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャーも兼任している。また、ヘルスケア全体のシステムマネジメントを中心に、政策提言や講演活動を国内外で行っている。教育活動として山本雄士ゼミを主宰。日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医でもある。共著書に『僕らが元気で長く生きるのに本当はそんなにお金はかからない』(ディスカヴァートゥエンティワン)など。ホームページはこちら(写真:大槻 純一、以下同)
古市:今日はよろしくお願いいたします。山本さんと初めてお会いしたのはG1サミットでしたね。山中を歩くハイキングのアクティビティがあって、山本さんだけスーツ姿だったのが印象的でした。
山本:仕事のときはいつでもスーツ。ピシッとしたスタイルにしてますが、あの時はタイミング悪かったですね。
古市:僕は「ハイキングなのに、どうしたのかな?」って思いました(笑)。
山本:それを言ったら、古市さんもマフラーかなんか首に巻いてたじゃない。
古市:あれはストールです! そう、夏なのに僕はストールを巻いていました。
山本:僕のほうは、古市さんはこの暑いのになぜマフラーなんか巻いているんだろう、って思いました(笑)。
古市:お互い、おかしな恰好をしているな、と思っていたってことですね……。ちょっとお話ししたら、医療はお堅い業界だから、ジャケットとネクタイは絶対だ、とおっしゃって。「なるほど、でも着替えることはできるはずだけどな」とも思ったんですが(笑)。
山本:あの時は着替える時間もなかったんですよ!
古市:ははは。そんなお忙しい山本さんと今日はゆっくりお話しできるということで楽しみにしていました。
山本:僕も今日は「古市トーク」で丸裸にされるつもりでおります。
古市:山本さんは「病気を治す」ではなく「病気にさせない」医療に、というコンセプトで医療コストを下げていくための事業を展開していらっしゃいますね。もともとお医者さん一家ですか。
山本:違います。ただ兄弟が3人いて、全員医者ですが。
古市:それをお医者さん一家と言うんじゃないですか。
山本さんは、計算づくできれいごとをおっしゃっているような印象もあるが、後篇を楽しみにしたい。医療現場の魅力のお話は、大変ありがたいが、一方で、基礎医学にヴィヴィッドな感性の持ち主が大量に参入していない限り、医療技術の本質的な進歩は期待できまい。山本さんの目指されているところは、システムとしての健康な社会の実現をいかに担保するかということのようにも思われるが、かと言って、医療関係者不要の世界が実現できるわけでもないし、もともと人間が対象のことであれば、ロボットに頼れる部分も限界はある。その上、日本の場合は、時間との競争との面もあって、地方では中堅都市などでも患者の急激な減少などが想定以上の速度で進行しているようなので、山本さんが気づかれた(首都圏や大都市中心の)医療システムの問題とはまた別の、社会にとってはより深刻な危機にさらされてようでもある。妙な言い方だが、山本さんのように何をやっても標準を超えた成果を出せるだけの能力のある人たちが(東大などの)医学部に進んでしまい、ほとんどが狭い医学あるいは医療領域に閉じこもってしまっていることが、実は、最大の問題なのかもしれない。(2015/01/05)