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【渡辺 允】「両陛下の『無私の心』を知ってほしい」

“天皇家の執事”が見たこの国の「象徴」

2015年2月4日(水)

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戦後70年となる今年、日経ビジネスオンラインでは特別企画として、戦後のリーダーたちが未来に託す「遺言」を連載していきます。この連載は、日経ビジネス本誌の特集「遺言 日本の未来へ」(2014年12月29日号)の連動企画です。

第10回は、宮内庁・前侍従長の渡辺允氏。現役の方を除き、唯一存命の侍従長職経験者です。一般には知ることのできない天皇陛下の普段の姿を見続けた氏は、「無私の心」がこの国に求心力をもたらしていると訴えます。

天皇家の執事
渡辺允(わたなべ・まこと) 1996年から2007年まで、「天皇家の執事」たる侍従長。曽祖父の渡辺千秋氏は明治天皇崩御時の宮内大臣。父は「昭和天皇最後のご学友」として知られる渡辺昭氏。現役の川島裕氏を除き、唯一存命の侍従長職経験者。「畏れ多いことながら」としつつ、両陛下の普段の姿を広く知ってもらうため、退任後は講演などを重ねる。1936年5月生まれ。(写真:後藤麻由香、以下同じ)

 10年半、宮内庁の「侍従長」を務めました。侍従長とはどんな仕事をするのかとよく聞かれるんですが、陛下の秘書官とか執事とか、そういったイメージを持っていただいてよろしいんじゃないかと思います。

 ほかの皆さんに比べて、普段の両陛下のお姿を拝見する機会が多かったわけですけれど、その10年半で私が感じたことというと、やっぱり一番は両陛下の無私のお心です。一言で言えばそういうことです。

 陛下は日本国の象徴であり、国民統合の象徴であるというお立場でいらっしゃいます。これは寝ても覚めてもそうで、ひと時たりともそのお立場でない時間はないわけです。いつでも、その時にどうするのが一番ご自分の立場に求められているのか。それを考え続け、行動し続ける。そうやって日々過ごされている方が本当におられるんです。その結果、陛下は、天皇の務めは国と国民のために尽くすことであると考えるに至ったと私は思っています。

 もう少し説明が必要でしょうね。例えば若い時に、親兄弟とも隔離されてしまったハンセン病患者がおられます。時代が移って隔離された状況でなくなっても、受け入れてくれる故郷もない、親族もいない。両陛下は全国の療養所を回られて、そうした人たちの老後を非常に心配してお言葉をかけ続けてこられたんです。

 私も何回かお供しましたが、車椅子に座っている一人ひとりに寄り添うように身をかがめられて、苦労してきた話に耳を傾け、「寂しいでしょうけれど、どうか元気で」と慰め、励まされるわけです。

周囲に伝わる両陛下のお人柄

 両陛下がそうされることを、もしかしたら当然のように思われている方もおられるかもしれません。ですが、少し想像していただけたら分かりますが、これは肉体的にも精神的にも非常に大変なことですよね。報道されるのは本当にその一部だけど、現場で、一人ひとりの話を聞いて、その苦労を察して、お言葉をかけられるわけです。一人ひとりに真剣に向き合って長い時間を過ごされるんですよ。

 そうしたお姿を見て、周囲の看護師さんなんかが感激してもらい泣きされたりします。それはもちろん、陛下というほかにはないお立場がなすことでもあるでしょうが、それ以上に、両陛下のお人柄が周囲に伝わるからだと思うんです。

 もう一つ具体例を挙げましょう。宮崎県に西都原というところがあります。そこにある古墳群をお訪ねになって、当時の知事さんがそこにある小さな小屋の説明をされたんです。地下に古墳がある場所で、普通の地面があってもともとは隠れていたんだそうです。それが数十年前のある日、地元の人が何かで通りかかったら突然土地が陥没して地下に古墳があったと分かったそうなんです。

 その説明をお聞きになった陛下は、すぐさま「その通りがかった人に怪我はありませんでしたか」と尋ねられたんです。普通の人だったら、地下の古墳について質問すると思うんです。しかも数十年前の出来事ですよ。私にとっては、これはものすごく印象に残っったことでした。

 普段からそういうふうに、人々の幸不幸を心にかけるという発想をなさっていなければ出てこないお言葉だと思うんです。とっさのことですから。意識してそういうことを言おうと思っても、そうはいかないと思うんです。だからその時、「ああ、この方はこういうものの考え方なんだな」と納得したんです。

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「【渡辺 允】「両陛下の『無私の心』を知ってほしい」」の著者

中川 雅之

中川 雅之(なかがわ・まさゆき)

日本経済新聞記者

2006年日本経済新聞社に入社。「消費産業部」で流通・サービス業の取材に携わる。12年から日経BPの日経ビジネス編集部に出向。15年4月から日本経済新聞企業報道部。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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