「人間の脳を作るのは簡単だ」

セバスチャン・スラン氏に聞くAIと労働者の未来(下)

グーグルXの創設者で、自動運転の開発者としても知られる米ユダシティー共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のセバスチャン・スラン氏。労働者と教育の未来を語ったインタビュー1回目に続き、2回目ではグーグルXの設立思想から人工知能(AI)技術、さらに「シンギュラリティー(特異点)」の見通しにまで踏み込む。

既存事業を排除した「グーグルX」

ここまでAIや機械化が労働者に与えるインパクトについて聞いてきたが、デジタル化の中で企業の競争力も大きく様変わりしている。グーグルの秘密研究所「グーグルX」の創設者として、未来にどう対応しようと考えてきたのか。

セバスチャン・スラン氏:テクノロジーが持つ破壊(ディスラプション)の前には、どんなビジネスも安全ではない。ジャーナリズムは既にその波が押し寄せている業界の代表例だが、今後はこれまで影響の小さかった金融や行政、高等教育などの分野も対象になっていくだろう。

グーグルの自動運転車を開発したAI研究者セバスチャン・スラン氏は昨夏以降、オンライン教育企業ユダシティーの経営に専念する(撮影:林 幸一郎)

 企業の経営者は自社の顧客を熟知し、既存事業を守ろうとする。しかし、破壊者は既存ビジネスとは全く異なる事業形態で市場に参入してくるため、初期の段階ではディスラプションだと感じられない。誰かがあなたのところにやってきて、「明日あなたの会社の顧客をもらっていくよ」と告げることはない。ただ単に、あなたがそれまで大事にしてきた顧客が、一度も競合相手と見なしたことのないプレーヤーに突如として乗り移ってしまうのだ。その理由は圧倒的な低コストかもしれないし、製品に対する関心の変化かもしれない。いずれにせよ、テクノロジーが未来に与える変化を注意深く観察していない経営者は、いざディスラプションが始まったときには、まるでそれまで何も見ていなかったように感じるだろう。そして、その時点ではもう手遅れなのだ。

 グーグルXでの自動運転車開発は当初、株主などから批判を浴びた。それはちょうど、グーグルがアンドロイドを買収したときに受けた批判に似ていた。今から振り返れば、アンドロイド買収はグーグルにとって最も賢明な判断の一つだったのだが。

 我々はグーグルXを「自由に未来を発明できるチーム」にしたいと考えていた。そのためには、いかなる既存事業とも関わりを持たない組織にすることが極めて重要だと判断した。事実、グーグルXは自動運転の開発が報じられるまでの何年もの間、まるで存在しないかのように運営されていた。社員にさえビルへのアクセスを許していなかったほどだ。

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著者プロフィール

田中 深一郎

田中 深一郎

日経ビジネス記者

日経新聞科学技術部、証券部を経て、2012年4月より日経ビジネス記者。

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