日本では今後、人口減少が急速に進んでいく。少子高齢・人口減少社会の中、不採算事業に配分している資源を成長分野に移し替え、個々人の生産性を高め、かつすべての働く者が家庭の責務を果たせるような仕組みづくりが急務だ。一足先に働き方改革が進められたドイツでは、優秀な職業人ほど午後5時に仕事を終えるという話も聞く。そうした社会のムードは、どのようにしてつくられていったのか。ドイツの戦略コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの創業者、ローランド・ベルガー氏に聞いた。(聞き手は広野彩子)
ベルガーさんは定期的に来日しています。今回の来日で面談した日本の経営者の景況感はどうでしたか。
ベルガー:今回は大企業の幹部5人ほどとお会いしましたが、景況感はよかったです。少なくともいずれの企業も増収増益でした。ただ、多くはアベノミクスによる円安のおかげです。
株価も一時、2000年以来の最高値を記録しました。
ベルガー:訪問した会社はいずれも好業績でしたが、もし構造的な固定コストがかさまなければ、売り上げはさらに上昇し、利益も大幅に増えていたことでしょう。それもあって楽観ムードだったのでしょう。
改革すれば、日本社会はもっと柔軟に
しかし忘れてならないのは、為替相場が1ドル=ゼロ円になることはないということです。本当の構造改革が始まれば、多くの伝統的なビジネスに影響し、厳しい改革が必要となり、祭りが終わることでしょう。

独ローランド・ベルガー創業者・名誉会長。米系コンサルティング会社のパートナーを経て1967年にドイツでローランド・ベルガーを創立。2003年から同社会長、2010年から現職。独ルードビッヒマクシミリアン経営大学院でMBA(経営学修士)取得。欧州委員会や域内国家における政府専門委員などを歴任。(写真=陶山勉、以下同)
企業には厳しい構造改革が必要ということですか。
ベルガー:構造改革が断行されれば、日本の社会構造はもっと柔軟になります。まず、自動車業界を除く多くの日本企業は、今でも事業を多角化し過ぎています。
多角化で始めた事業の多くが、低収益です。きちんと低収益なビジネスを畳んで、中核的なビジネスに集中すべきでしょう。まずは「自社の要は何か」を再定義することです。成長が見込め、収益性が高く、かつ企業文化や企業体質になじみ、これまでのノウハウが生かせ、市場で強みを発揮できるものは、何か。
不採算事業を完全にやめることができないのなら、少なくとも休止にすべきです。何らかの行動を起こさなければなりません。不採算事業に補助金を与え続けるわけにはいかないのです。
日本企業は伝統的に、環境の変化に応じた思い切った事業リストラや経営の方向転換に不慣れですし、従業員の雇用を守ることを大切にする傾向があります。余剰人員が生まれて米国企業なら解雇で調整する場面であっても、日本企業は雇用整理を避けることが多い。
雇用整理までいかなくとも、長く勤め続けた余剰人員に対して厳しい対処をすること自体が、日本人の気質には合わないかもしれません。日本のマネジメントスタイルは米国とは違いますからね。日本人にとって、従業員に厳しい処遇をすることは、政治的にも正しくないと思えるのかもしれません。
しかし、ビジネスはビジネスです。無理に自分たちが目の前の同僚の雇用を守らなくても、もっと高収益な企業や事業に転じた方が、最終的には該当する従業員にとっても幸せかもしれない。
ワーク・ライフ・バランスという言葉をよく耳にする今でも残業がなかなか減らないのは、効率とか生産性云々以前に、残業代込みでなければ結婚生活が送れないような給与体系になっている会社が少なくないからではないでしょうか?(2015/09/29 10:37)