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布団の中で正岡子規がやったこと
 ----岩波文庫で子規を読む

『仰臥漫録』正岡子規著 岩波文庫 460円(税抜き)

  • 松島 駿二郎

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2006年4月14日(金)

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 仰臥とはいうまでもなく、仰向けである。漫録とは子規においては短文、俳句、日記、墨絵などさまざまな文芸の形態を指す。

 なぜ仰向けなのか。1901年(明治34年)9月、35歳になった子規は、カリエスの病状が重篤となり床に仰向けになったまま、自ら寝返りを打つこともできなくなる。そして始めたのがこの「漫録」である。日常の些事、食事の種と量、数、便通の状況まで書き詰め、さらに仰向けのまま筆を執って半紙に軽やかな筆致で俳画を描く。

 墨の濃淡を巧みに使い、仰向けでなければ出せないような描線の見事さ。子規の多才を見せつける。もちろん俳画だから、俳句もいっぱい。

 もう1冊『病床六尺』岩波文庫 500円(税抜き)がある。これも病床から届く範囲の六尺四方の写生と好奇心と、病床から離れられない焦燥感などを、死の2日前まで綴ったエッセイ集。
「病に寝てより既に六、七年、(中略)ずんずんと変わって行く東京の有様は僅かに新聞で読み、来る人聞くばかりのことでばかり。そこで自分の見たいと思ふものを挙げると、
一、活動写真 
一、自転車の競争および曲乗 
一、動物園の獅子および駝鳥 
一、浅草水族館 
一、浅草花屋敷の狒狒及獺(かわうそ)
一、自動電話及び紅色郵便箱 
一、ビヤホール 
一、女剣劇及び洋式演劇 など数ふるに暇(いとま)がない。」

 明治後期、文明開化が進む東京の新しいものを仄聞しても、この目で見ることの出来ない心情がじかに伝わってきて、六尺の病床がにわかに哀れである。

 子規といえば高浜虚子とともに現代俳句を確立した男。有名な「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」などの秀句で知られている。そして、旧来の短歌を激しく攻撃したことでも知られている。  これについては、
『歌よみに与ふる書』岩波文庫 500円(税抜き)が凄い。10回にわたって、旧来の和歌を攻撃し、批判が出るや即時反論し、病の兆候が見える中での、自分の芸術論を一歩も譲らない魂魄が凄い。ちなみに第2稿の書き出しから、
「貫之は下手な歌よみにて『古今集』はくだらぬ集に有之候。その貫之や『古今集』を崇拝するは誠に気の知れぬこと。」
 といった調子だ。そして万葉集を最後にして源頼朝以来、短歌の世界では一向にふるった人がいない。と辛辣を極める。西行法師は? と思わず聞きたくなってしまう。
 岩波文庫には『漱石・子規往復書簡集』和田茂樹編 800円(税抜き)が最近収められた(2002年)。これはそれまでは全集を丁寧に読むしかなかった、漱石・子規という2人の間に往復した書簡が、手軽な文庫本になったもの。刊行を喜びたい。

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