• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

『ジパング』のかわぐちかいじが問う「戦後」

団塊世代がつくりあげたもの、うしなったもの

  • 渡辺由美子

バックナンバー

2006年5月18日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 60年前の日本にタイムスリップした海上自衛隊の護衛艦「みらい」。平和な時代に生きている自衛官たちが、ある日突然、太平洋戦争のただ中に放り出され、否応なく戦争に巻き込まれてゆく――。

 『ジパング』は、歴史改編というSF仕立ての形を取りつつ、自衛官の角松と、帝国海軍軍人・草加の対立を通して「戦後の日本」への問いかけを行っている物語だ。

 国際社会の中での日本の立ち位置への疑問や、若い世代に漂う将来への閉塞感。第2次大戦を終え、成長を続けてきた日本は、いま立ち止まり、過去の意味と未来を問おうとしているように思える。作者のかわぐちかいじ氏は、まさに戦後、つまり現代の日本を作ってきた団塊世代でもある。かわぐち氏が『ジパング』に託して、今の日本に語りたいことをじっくり聞いてきた。

かわぐちかいじ氏
かわぐちかいじ氏(写真:北山 宏一) (C)かわぐちかいじ 講談社

【かわぐちかいじ氏プロフィール】
かわぐちかいじ 1948年広島県尾道市生まれ。68年「ヤングコミック」誌にて『夜が明けたら』でデビュー。『はっぽうやぶれ』『プロ』『ハード&ルーズ』など代表作多数を発表。87年『アクター』、90年『沈黙の艦隊』そして2002年に『ジパング』で講談社漫画賞受賞。『ジパング』で受賞の際には「1人の作家が3回も取るのはいかがなものかと思うが、この作品を推さないわけにはいかないし…」と審査員各氏を困らせた。本年『太陽の黙示録』で念願の小学館漫画賞 を受賞した。

【『ジパング』とは】
 週刊『モーニング』(講談社)で連載中のコミック
 西暦200X年。横須賀を出航した護衛艦「みらい」は、1942年・太平洋戦争のただ中に突然投げ込まれてしまう。「みらい」副長の角松に救助された帝国海軍少佐・草加拓海は、「みらい」艦内でこの戦争の行く末と日本の「戦後」を知り、新国家「ジパング」を作るために動き出した。
 現在コミックスは23巻まで刊行(使用した画像はすべてこの巻のもの)、アニメーションDVD-BOXが発売中(発売元はマーベラスエンターテイメント)

Part1「戦前」から見たら、日本はどう見える

――『ジパング』は、日本の敗戦から始まる「戦後」を知り、歴史を変えようとする帝国海軍少佐・草加と、それを阻止しようとする自衛官・角松の対立が主軸となっています。
 太平洋戦争の時代に最新鋭のイージス艦が降り立った……歴史を、当時の日本にとって有利な方向に変えられる状況に置かれたわけですが、角松は現在の歴史に繋がる、つまり「負ける」日本への道筋を守ろうとします。彼はなぜ歴史を変えようとしないのでしょうか。

角松たち「みらい」の乗組員は、現代人である僕らの代表として描いています。僕らは戦後の日本を生きてきて、この戦後の全てをよしとはしないけど、よしとするところもあるわけです。

――よしとするところとは。

戦争をしなかったこと、豊かになったことですね。飛躍的な経済復興を成し遂げて、中流階級層が占める割合が世界でもトップクラス、とかね。

日本が経済的に安定している、ちゃんとメシが食える、そして戦争もしなかった。いろいろなことで少しお金を出して戦争に加担したとかそういうこともあるんだけど、それでも日本は自己責任で戦争をしないというのを60年も守ってきた。これまでの日本の歴史から言うと稀有なことだと思うんですよ。そこは評価できる。それをよしとすると。

――一方で、戦前の海軍軍人である草加は「みらい」の中で知った戦後日本を否定していますね。「敗戦と無条件降伏から始まるのではない誇り高い国」として「ジパング」を作ろうと画策します。豊かで戦争も起きない現代の日本を、彼が否定する理由は何なのでしょうか。

戦後の日本人は、「生きていくためにはしょうがない」というところから始まっているんですよ。敗戦で何もかもなくなって、自分たちが生きて食べていくために、犠牲にしなければいけないことがあったという。

――犠牲にしたものは何だったのでしょう。

戦後の日本人は、豊かさの代償に「誇り」を失ったのだと思いますね。「武士は食わねど高楊枝」という言葉があるじゃないですか。食わなくても、誇りを持って理念を曲げないという。

「生きていくためにはしょうがない」というのは、母親が子供を育てるような母親の感性、生命を維持していこうという女性原理だと思うんです。豊かさというのは女性原理から来たものなんですよ。理想を掲げるよりも身体の快不快を優先するという。

何かをなすためには自分の肉体を差し出して死んでもいい、死ぬことで自分の誇りを全うできるのだったらそれでもいいよということを選ぶのが男性だと思うんですよ。理念や人間の正義に対してとことん正直に生きていこうというのが男性原理で、それが戦後は少し失われたんじゃないかと思っているんです。

――アメリカとぶつかるよりは、条件を飲んでしまおうという。生きていくためには仕方がないということですね。

うん、「仕方がない」と言うことで自分の正義を主張する力を失っている可能性もありますよね。本気で戦おうという気概とかね。「いや、必要となれば戦うよ」と思っているかもしれないけど、もうやらないですよ、日本人は。国としての自信というのは、食えなくてもいいから自分の意思をずっと貫き通すことで生まれると思うんですよ。誇りを捨ててでも食べた人には、あとは言い訳しか残らないですね。

――それでは日本人は今後、戦うことはないんでしょうか。

日本人は、戦争が嫌いですよ。たまたま戦時中はヒステリックになってやったんだけど、だからといって好戦的な民族かというとそうじゃないですよね。

――豊かさの女性原理と誇りの男性原理、かわぐちさんはどちらがよいとお考えになっているのでしょう。

それはバランスだと思うんですよ。食べることばかりに汲々として誇りを捨ててもいけないのだろうし、誇りに殉じて死んでしまったら、それはそれで後がない。

バランスだと思いますよ、何でも。そのバランスが難しいんですよ、人間。

――『ジパング』では、角松以外の「みらい」隊員たちは、だんだん草加が目指す方向に惹かれていきますね。太平洋戦争の中で日本が負けないように、「みらい」という近代兵器を積極的に使おうという。

イージス艦「みらい」は「護衛艦」と称しているけれども、本当は軍艦ですよね。戦うためにできている艦なんですよ。

――『ジパング』作中でも、自衛官を「軍人」と言っていますね。こう言葉にすると、ちょっと穏やかでない印象もありますが。

【次ページ Part2 『沈黙の艦隊』から『ジパング』へ】

コメント5件コメント/レビュー

日本は世界とどうかかわっていけばいいのか。ジパング、沈黙の艦隊などを読むと、そのことを強く意識します。それは私たちが「戦後世代」であることと無縁ではないでしょう。否定的な意味に使われることの多い「戦後」ですが、欠点はあっても間違いではない。私が角松達「みらい」に共感するのは、かれらの行動にそんなメッセージを感じられるからかもしれません。(2008/05/04)

「著者に聞く」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

日本は世界とどうかかわっていけばいいのか。ジパング、沈黙の艦隊などを読むと、そのことを強く意識します。それは私たちが「戦後世代」であることと無縁ではないでしょう。否定的な意味に使われることの多い「戦後」ですが、欠点はあっても間違いではない。私が角松達「みらい」に共感するのは、かれらの行動にそんなメッセージを感じられるからかもしれません。(2008/05/04)

かわぐちさんの基本的考え方が解って良かったです。戦後の日本には、世界に誇れるモノは沢山あると思います。ただ、それを若い方々に表現していっていないし、世界の国々にも表現していっていないだけのような気がしています。世界の文化の輸入には熱心だけど、日本の文化の輸出にも、これからは力を入れていく必要があると思います。(2006/09/10)

沈黙の艦隊とからめ、核の話を読みたかったなあ。(2006/06/01)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

面白い取り組みをしている会社と評判になれば、入社希望者が増える。その結果、技能伝承もできるはずだ。

山崎 悦次 山崎金属工業社長