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アラビアンナイトから溶けだした女
--砂漠で会ってみたい赤毛の女性ベル

『砂漠の女王  イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯』 ジャネット・ウォラック著 内田優香訳 ソニー・マガジンズ 2625円

  • 松島 駿二郎

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2006年6月23日(金)

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sabaku
『砂漠の女王  イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯』

 19世紀いっぱい、イギリスは世界帝国を謳歌した。船と石炭と鉄の圧倒的な力で築き上げたヴィクトリア時代。本書は女流の評伝作家によるものであり、舞台となっているヴィクトリア時代の物語(トマス・ハーディを思わせる)は、ゆったりと優雅で香りに満ちている。こういう書物は時間をかけて読むことだ。

 オレンジ色に近い鮮やかな赤毛、透き通った緑色の目、ラクダの背にゆったりと身を任せ、ベドウィンの衣装に身を包んだ女性が砂嵐の中から現れたらどうだろう? 誰しも『アラビアンナイト』の中から溶けだしてきた夢幻の女性だと思うに違いない。

 この女性はガートルード・ベルといって、ヴィクトリア時代の教養と優雅さを完璧に備え、男性の学舎オクスフォード大学で学んだ才媛。緑溢れるイングランドを冒険を求めて飛び出し、荒涼たるシリアの砂漠に魅せられた類い希なる女性。

 ガートルードはアラビアの砂漠をこよなく愛した。砂漠の旅はラクダの背に揺られる苦痛と、水のない渇きと、40度を超すような猛暑にさいなまれる。夜は周辺部族の首長のテントで毛布一にくるまる。砂漠の空幕はガートルードを魅了した。

 シリアのダマスカスを訪れたときのこと。
「町の城壁まで砂漠が迫り、風が吹くたびに砂漠の息吹が吹き込み、ラクダを追うアラブ人が行き来するたびに、砂漠の精神が城門を通り抜ける。すべてのことの中心にある」

 砂漠の精神を、このような言葉で表現することは、砂漠に魅せられた魂にしかできない。

 アラビアの砂漠は、折しもトルコによる強圧的な支配が終わろうとしていた。そこの権益を求めてイギリスとフランスが角突き合わせ、どこに両国が線引きするか、という帝国主義国家の重大時にさしかかっていた。そしてアラビアの部族情報にもっともふさわしい人物はというと、ガートルード・ベルしかいなかった。

 ベルの情報は正確無比、しかも部族長とテントの中で強いコーヒーを飲みながら夜更けまであぐらをかいてじかに接し、対等に話し合える。英国の情報部はベルをカイロに呼びよせ、中東戦略の枢要として配置した。下僚にはT・E・ロレンス(アラビアのロレンス、ベルは「坊や」と呼んだ)がいた。任務はアラビア砂漠の線引き。2人ともアラビア砂漠に身命を賭した。そして結局現在のイラクにハーシム朝をうち立て、2人ともキング・メーカーと喧伝された。そのイラクの行く末は米国に蹂躙される哀れな砂漠の国に過ぎない。

 2人は結局大英帝国の帝国主義の手先で、その最先端にいた人物と片づけてしまうこともできる。でも二人ともなんと魅力的なのだろう。

 彼らを魅力的な人物に仕立てたのは、アラビア砂漠であることを銘記しておこう。

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