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ミクロの大宇宙「脳」の物語

『脳のなかの幽霊』V・S・ラマチャンドラン サンドラ・ブレイクスリー著 山下篤子訳 角川書店刊 2000円(税抜き)

  • 松島 駿二郎

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2006年8月25日(金)

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『脳のなかの幽霊』V・S・ラマチャンドラン サンドラ・ブレイクスリー著 山下篤子訳


 それが初めて口にされたのは、南北戦争の時のことだった。史上最大の犠牲者を出した地上戦。多くの兵士たちは脚や腕を失った。野戦病院の医師たちは、不思議なファントム(幽霊)の存在を感じていた。

 腕を失ったにもかかわらず、病癒えた兵士たちが、あたかもまだ腕があるように振る舞うのを目撃した。兵士たち自身はコーヒーカップを手にし、カップが熱ければ熱いように反応し、まるでファントム(幻)に操られるように「熱い!」と叫ぶ。この症候群はよく知られたもので、神経医学界では「幻肢」症候群と言われている。

 本書のタイトルの中の「幽霊」という言葉はこの「ファントム」のことである。ラマチャンドランはインド出身の脳認知を研究する世界的に名高い学者。本書は2段組で300ページを超える大著で、脳のなかのファントムに支配された症例を、これでもかと言うほど列挙する。

 多数の患者を調べて、その中から症候群を見つけ出すという方法もあるが、1個の症例から類推を深めて、症候を見いだす方法もある。ラマチャンドランは数多くの個別の症例から、脳の神秘、情報伝達の仕組みを切り開いていく。

 「先生、私の悩みは、しばしば女性用のトイレに入ってしまうことなんです。WOMANの最初のWOがどうしても見えないのでMANと間違えるんです」

 この悩みを持った男性は、自分の視野は正常そのもの、と言い張った。そして、
「先生の顔を見ても何一つ欠けていないんですよ」
 と私の顔をしげしげと眺めて、
「でも、ラマチャンドラン先生は片方の耳と目が無いようですが、大丈夫ですか?」

 この患者に対して大脳の視覚野に疾病があることを証明するため、片方の目と耳が無い先生は様々な実験を試みる。治ることはないのだが、疾病の存在と、視覚神経細胞の働きについて小さな知見を得る。

 ヒトの脳については推論よりも、このような小さな知見を積み上げていくしかない。というのがラマチャンドラン先生の学問的態度である。確かに脳の不思議はファントムの一つひとつと向き合うしかないのだな、というのが読後の感想。

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