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苦闘する女性たち

『キュリー夫人伝』エーヴ・キュリー著 河野万里子訳 白水社刊 2200円(税抜き)

  • 松島 駿二郎

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2006年10月6日(金)

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『キュリー夫人伝』エーヴ・キュリー著 河野万里子訳

 誰でもが知っている高名な物理学者の偉人伝。偉人伝? ケッコウ、ケッコウという人がいるだろう。子供の頃に読んだ偉人伝は、みな程度が低く、偉人が成し遂げた成果を中心に書かれていた。

 本書は名著として知られ、1938年にフランスで初版が刊行され、同じ年に、日本でも翻訳出版された。著者は科学者の次女。その改訳版。待ちに待った本と言っていい。有名な書き出し、
「その人は女だった。他国の支配を受ける国に生まれた。貧しかった。美しかった」。

 ごく普通のポーランドの女性の誕生を告げる言葉から、長い評伝は始まる。この少女は利発だった。自然の中を駆け回るのが好きだった。勉強は良くできた。数学、外国語が得意だった。忍耐強かった。分からないことには、分かるまで取り組んだ。

 この女性はパリに出て理化学分野に進もう、と決心をする。オンボロ屋根裏部屋で、極度の貧窮に耐えて図書館や大学に通った。何日も何ひとつ口にしないで、暮らした。ついに栄養失調で死の寸前までいったところで、友人に助けられた。

 この女性はどこまでも純粋な魂を持っていて、「欲・得」といった言葉とは無縁の研究生活を送っていた。そんな魂に惹かれたもう1つの魂があって、2つの魂は一緒になった。女性はマリーといい、男性はピエール・キュリーといった。ピエールは天才的物理学者だった。マリーも既に天才的物理学者だった。そもそも女性の物理学者なんか、どこを見渡しても1人もいない時代だった。

 2人は奇妙に強力な放射線を発する鉱物に出会った。レントゲンが放射能を発見し、科学分野ではウラニウムなどの放射性鉱物が発見されていた。世界の化学分野は一休みして、もうこれ以上新しい物質はないだろうと、たかをくくっていた。

 2人はボヘミアの廃坑から出る排石に取り組み、4年かけて精製し、光り輝く10分の1グラムの純粋な鉱物を単離した。ラジウムの発見である。子供の頃の偉人伝ではピエールとキュリーが、ある日突然に闇でも光る鉱物を発見し、驚いた2人の顔がラジウムの光を浴びて照らされる瞬間が描かれていたっけ。

 ピエールは栄誉の直後に、乗合馬車に轢かれて死ぬ。

 マリーは女性で初めてノーベル賞を受け(しかも2回も)、イギリスの王立科学協会の女性会員に女性としては初めて推挙された。

 キュリー夫妻の最も衝撃的な仕事は、ラジウムなどの放射性物質が放射線を放出しながら、ヘリウムへと崩壊することを突き止めたことだった。それまでの物理学の、物質は不変であるという原則をぶち壊してしまったのだ。

 物質もはかなく崩壊する。という発見は物理学だけではなく、広く科学哲学にまで、根本からの見直しを避け得ない影響を与えた。

 20世紀初頭に発見されたラジウムと放射線は、文字通り「20世紀最大の発見だった」。ある時、ピエールはラジウムについて、ガン治療などの医療分野で画期的な功績を上げる。しかし、ノーベルの「ダイナマイト」と同じように、悪い手に渡った時には危険になると予見した。

 不幸にもこの予見は広島、長崎で的中してしまった。 

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