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サラリーマンから将棋のプロ棋士になった人の話だ。2005年の春から秋にかけてマスコミでかなり取り上げられたから、まだ覚えている方もいることだろう。
26歳で一度はプロへの夢を断たれた瀬川晶司さんは、その後アマチュアとして驚異的な勝ち星を上げ、戦後初のプロ編入試験を受けることになった。6番勝負の結果、瀬川さんは勝ち越しを決め、35歳にしてプロ入りが認められた。
この事件そのものも魅力的だが、本書が描き出すドラマは予想を超えて大きい。『なぜプロ棋士になれたのか』という題名が示すように、ただ一個人の夢が叶ったというだけではなく、その構造的背景を示すことによって、大人が共感できる“現代のおとぎ話”になっているのだ。
アマチュア激減、将棋連盟の経営悪化
スポーツやゲームで、プロが存立しうる財政基盤を持つジャンルは多くない。新聞社という安定した大スポンサーを持つ囲碁・将棋にも、変化の波が押し寄せていた。
10年前の羽生善治7冠フィーバーをピークとして、将棋ファンは毎年のように減ってきた。段位を申請するアマチュアは激減し、ピーク時には4億円あった免状収入が1億円以下となった。中規模スポンサーも2社撤退し、安定経営を続けてきた将棋連盟もついに赤字に陥った。
将棋連盟の財務状況が急速に悪化するなかで、行動力のない執行部に対して若手棋士には危機感が膨らみつつあった。瀬川さんフィーバーが起きたのは、そんな状況下だったのだ。
この事件が起きるまで、プロへの“再チャレンジ”は認められるはずのない話だった。プロ将棋界は、プロになれた者となれなかった者を峻別することで成り立っている。しかし、現状の制度を守っているだけでは、この業界自体が沈んでしまう雲行きとなってきた。本書は、世事に疎い将棋指しが時代の流れを感じて少しずつ変わってゆく様子を丹念に追う。
時を同じくして行われた理事会会長選挙で、棋士たちは保守的な中原誠会長よりも大胆な手を打つ米長邦雄会長を選んだ。
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