「超ビジネス書レビュー」

『ぼくは痴漢じゃない!』と言ってはいけない?!

男ならヒトゴトじゃない、冤罪被害者の手記

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2007年1月17日(水)

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ぼくは痴漢じゃない!』鈴木健夫著、新潮文庫、514円(税抜き)

 毎日、会社へ向かう通勤電車の中は、“冤罪”の住処。あなたもいつ「鈴木さん」になってもおかしくはない。

 著者は東証1部上場企業に勤める、妻子持ちのサラリーマン。ある日、通勤電車の中で痴漢と間違われ、その後の人生が一転した。裁判では一審で有罪、二審で逆転無罪を勝ち取るも、職を追われてガテン系職業を転々とし、現在はデザイン業の自営とアルバイトで生計を立てているという(おまけに、宗教にもはまってしまっている)。

 あらゆる痴漢冤罪事件に共通する流れは、こういうものだ。

「思いもかけずに『あなた触ったでしょ』『あなた痴漢でしょ』と言われ、『えっ、違いますよ』と当然反応する。そこへ駅員が駆けつける。『私は触ってませんよ』と一生懸命言う。すると駅員はこう言います。『ホームではなんですから事務所に来てください。そこで話を聞きましょう』。疑われた当人は、説明すればわかってくれるだろうと思って、先に立って事務室にいくわけです。そこへ今度は近所の警察官がやってくる。『まあ、話は警察で聞くから、一緒に来てください』と言う」

 警察は話を聞く場所ではなく、本人が罪を認め自白すべき場所。否認すればするほど拘留は長引くだけだ。

裁判で勝っても、職を失い、年金を失い…

 痴漢事件の難しさは、客観的な証拠がほとんどないところだ。裁判でも「やった」と言う女性の供述と「やっていない」と言う男性の供述のどちらを信用するかが争点となり、すでに結論は決まっている。実は鈴木さんは駅の事務室に向かった時点で、自らいうところの“有罪行きのベルトコンベア”に乗ってしまっていたのだ。

 もし真犯人なら、さっさと痴漢行為を認めて示談するだろう。しかし、鈴木さんは莫大なコストを払って裁判で闘い、わずか罰金5万円の痴漢行為を否認し続けたのである。

 日本では逮捕・起訴されれば、ほぼ100%に近い確率で有罪となる。無罪判決が出るのは非常にレアケース。鈴木さんは運よく裁判で勝ったが、安定した職や定年後にもらえるはずの年金を失った。もちろん、精神的なダメージや家族に与えた影響は測り知れない。

 コストだけを考えれば、鈴木さんは罰金5万円を払ったほうが割がよかった。裁判によって得た物と失った物との収支は、あまりにもバランスを欠いている。だが、無実の罪を認めて、それで本当にいいのか?

 「否認して争うひとは共通して、『私はやっていないんです。やっていないものを認めるわけにはいきません。名誉とプライドの問題です』といいます。そして、『裁判所で調べてもらえばわかります。だってやっていないんだから』という無邪気な裁判への信頼を語るまっとうで善良な市民が大多数です」と解説の弁護士先生。

罪を被ってしまうほうが得、そんな現実

 詰まるところ、裁判で争うか否かはその人の価値観の問題というしかない。この本を読んだ後の私なら、「さっさと罪を認めて示談して、罰金5万円を払おう」と思うのだが、現在は条例が改正され、痴漢行為は罰金が上限50万円、上限6カ月の懲役刑となった。うーん…。

 とにかく毎日電車で通勤するサラリーマンなら、鈴木さん曰く「人生を賭けた、ルールの分からないゲーム」に突如ほうり込まれてしまったときのことを、危機管理として考えておくべきだろう。その恐ろしいゲームが一度始まってしまえば、ベルトコンベアのごとく有罪という終着駅に運ばれ、今まで築いたもの全てを失ってしまう可能性があるからだ。

 でも、危機管理の具体的な方策としては、なにがありえるのか?

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著者プロフィール

和良 コウイチ(わら・こういち)

ライター、編集者。1969年、東京生まれの埼玉育ち。法政大学経済学部卒業後、ニセ学生や海外旅行でしばらくプラプラし、やがて出版社に潜り込む。格闘技雑誌の副編集長から人文社会科学系の書籍編集者に転進し、教育関係のマーケティング会社にも勤務。現在、格闘技雑誌を編集しながら、自らもサンボ、ブラジリアン柔術の稽古で汗を流す日々。最近の関心は、柔道と“JUDO”の論じられ方。ロシア現代史に関するノンフィクションも執筆中。



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