「社長の本棚」

本は「トン」単位で数えます
〜インスパイア 成毛眞社長(前編)

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2007年3月6日(火)

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成毛眞 インスパイア社長

なるけ・まこと
1955年北海道生まれ。中央大学商学部卒業後、自動車部品販売会社に勤務。82年編集者を目指し、株式会社アスキーに入社。だが入社翌日、アスキーマイクロソフトへの出向を命じられる。86年マイクロソフト入社、91年代表取締役社長に就任。2000年同職を退任し、インスパイアを設立。製造業をはじめとする企業に対し、投資コンサルティング業務を行う。


 マイクロソフト日本法人の社長から独立し、投資コンサルティング会社の社長へ。ビジネスパーソンとして輝かしい経歴を持つ成毛眞氏は、ビジネス界きっての読書家としても評判である。

 今回、「自宅の本棚を見せてください」と取材を申し出ると、すぐさま快い返事が返ってきた。実際に自宅へ足を踏み入れると、居間のあちこちに本が積まれていた。そして、地下には“こだわりの古本屋”並みに充実している本棚がびっしり。それはもう単なる読書家というより、読書狂の域である。

 インタビュー中には、本や出版業界に対する辛口発言が何度となく飛び出した。だが、そうした言葉の裏側には「誰よりも本を読んできた」という自負が見え隠れしていた。

 現在、「文藝春秋」で「今月買った本」の連載を受け持つほか、常に数誌に書評を寄せている。取り上げる本は、歴史ものからインタビューもの、科学系ノンフィクション、美術書と幅広く雑食だ。だが、そこにはなぜか「ビジネス書」だけが見当たらない。理由を聞いてみると、「あんなものは時間潰しですよ」とキツイ一撃が返ってきた。

 ビジネス書は、大学生ぐらいのときに読みました。いまでも、人からたまに本をもらって流し読みをすることもありますが、やっぱりつまらないと思いますね。出世した人の単なる自慢話だったり、現場を知らない学者の戯言だったり。今日現在のことしか書かれていないから、役に立たない。ビジネスの世界で、今日現在のことをいくら読んでも仕方ないじゃないですか。かといって、3年後にどうなるかを考えようとしたら結構厄介でしょう。3年後を見通せるくらいなら、その人は本なんか書かないで自分でビジネスを起こした方が儲かりますよ。

 Web2.0関連の本がいろいろ出ているけど、書かれている内容は、普通にウェブを見ていればわかることですよね。でも、元毎日新聞の記者が書いた『グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する』(佐々木俊尚)は面白かったな。やっぱりプロのジャーナリストが書くと全然違う。ビジネスマン向けに紹介するというよりも、今現在のGoogle を取り巻く状況をリポートしている感じで。中身が変わらなくても、文章のプロが書くのと、素人の学者や経営者が書くのとでは決定的な違いがありますよ。

 読書はあくまで趣味だから、趣味としてビジネス書は読まない。趣味は読書と言っている人が「何を読んでいるんですか」と聞かれて、「ビジネス書」と答えること自体がもう謎だな。「私、おバカです」と言っているのと変わらないと思いません? それは趣味って言わないですよ。僕はビジネス書を読むぐらいだったら、冗談抜きで『課長 島耕作』(弘兼憲史)を読んだ方がよっぽどいいと思う。


 ビジネス書だけでなく、あまり読まないジャンルがある。それは小説、とりわけ純文学だ。「小説は力があり過ぎて、読むと考え込んじゃって仕事にならない」というのが理由だ。かつて『ノルウェイの森』(村上春樹)が流行ったとき、「読んで1時間ぐらい立ち上がれなかった」という。それほど、本に入れ込んでしまうタイプなのだ。

 ひるがえってよく読むジャンルは、子供の頃からノンフィクションだという。原体験ともいうべき1冊も、『積みすぎた箱舟』(ジェラルド・ダレル)という動物学を題材にしたノンフィクションだった。

 その本が出たのは小学校の3年か4年のときだったかな。発行元が当時は「暮らしの手帖社」で。同じ動物ものでも、『シートン動物記』とは違うんです。『シートン動物記』は、舞台が日常に近いじゃないですか。でも、『積みすぎた箱舟』はアフリカを中心とした、動物学者が書いた本なんですよ。記憶のあるなかでは、それがいちばんハマった本です。あの本に出合っていなかったら、そんなに本を読むようにならなかったかもしれませんね。中身はそれほど記憶にないんだけど、本というもの自体や、文章そのものにわくわくしました。

 実家は、もともと本だらけの家だったんですよ。やたらややこしい本ばかりでしたけど。なぜか数学系の本が多かった。

 親は小中学校を通じて1円もお小遣いをくれなかったんです。でも本だけは特別で、近所の本屋に行けばツケ払いで無制限に買えたんですよ。ただし、漫画はダメ。昔の家だからトイレの下の方に引き戸みたいなのがあって、そこに買った本を本屋が置いといてくれる。親が本を確認してオッケーなら、それを全部ツケで払ってくれていました。

 アニメも見せてもらえなかったし、漫画も買ってくれなかったので、しょうがないから本を読むしかなかった。だから、いまだに漫画を読めないんです。どういう順番に読んだらいいんだかわからない。よほど親が漫画が嫌いだったんだと思いますよ。


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著者プロフィール

澁川 祐子(しぶかわ・ゆうこ)

フリーの物書き。1974年、神奈川県生まれの東京郊外育ち。ビジネスからサブカルま で幅広く執筆。書評サイト「review-japan」編集部員。最近は、本と の出会いの場「グラデーションブックス」の起ち上げに奔走。



このコラムについて

社長の本棚

社長の本棚――。そこには通常のインタビューからだけでは伺い知れない、社長の素顔が隠れている。幼少時代の愛読書、人生を変えた1冊、経営者としてのバイブル本、意外な趣味の書…、ふだんはなかなか覗くことのできないあの社長の本棚をこっそり拝見!

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