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愛されるに値する男とは?

  • 山崎 雅保

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2007年3月22日(木)

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 寺田寅彦。物理学者であり、文芸においては夏目漱石門下の随筆家。ボクはこの人が描く風情や時代の空気が大好きです。

 彼が作品を発表し始めたのは明治30年代、20世紀に入って間もないころだったはず。鎖国を解いた日本が「近代化」への道を歩み始めて40年ほどしか経っていない時代です。

 40年は私ごとでふり返れば大昔。大学生になるかならないかの昔。個人としては遠い過去。けれど、歴史の上での40年は「ついさっき」かもしれません。寺田寅彦が文筆活動を開始したころの日本では、日清戦争に勝ち軍国への流れが強まりつつもあったのでしょう。それでも、市井にはいまだ江戸の穏やかな風情が色濃く漂っていました。

 寅彦の視線は穏やかです。妻に向けても子どもらに向けても、巷で触れ合う人々に向けても穏やかで威張ったところがありません。

 江戸の男たちは女たちや子どもたちとの折り合いがよかったといわれます。寅彦が若かった時代も、きっとそのような「心豊かな男ら」が多数生き延びていたのだと想像します。

『どんぐり』。若きある日の妻とのエピソードを主題としながら、わが子への慈しみをもつづった小品の中盤にこんな一節があります。

 実にいい天気だ。「人間の心が蒸発して霞になりそうな日だね」と言ったら、一間ばかりあとを雪駄を引きずりながら、大儀そうについて来た妻は、エヽと気のない返事をして無理に笑顔をこしらえる。この時始めて気がついたが、なるほど腹の帯の所が人並みよりだいぶ大きい。あるき方がよほど変だ。それでも当人は平気でくっついて来る。

 このとき寅彦の妻は4カ月ほど後に初産をひかえた身重。しかも肺を患っています。寅彦は、そんな妻の心身を思いやりながらも、そぞろ散歩へと誘うのです。

 ゆとりがあるなあ。それにしたって洒落たことをいう男だなあ、とも思います。
「人間の心が蒸発して霞になりそうな日だね」

 こりゃあ愛されるに値する男だ、と感心さえしてしまいます。

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