平穏なマンション生活を送っている人には、耐震偽装事件なんて「対岸の火事」としか思えないだろう。
だが、国交省のサンプル調査によれば10階建て程度のマンションの7%が耐震強度不足なのだという。実は、私たちは公権力が建物の「補強」や「建て替え」を迫ってきたら逃れられない網の中で暮らしている。そのことに多くの人は気づいていない。
耐震偽装事件では、明日にでも震度5強の地震が起きてマンションが倒れるかのように危険が煽られ、建物の「使用禁止命令」が出されて被害住民は追い立てられるようにしてマンションを離れた。ヒューザー物件(旧グランドステージ)11棟は、保有水平耐力が0・5未満だから「建て替え」と決めつけられた。建物の実態的な強さが確かめられることもなく、住民は膨大な二重債務を背負わされつつある。
この理不尽な処遇を「当たり前」とする感覚は空恐ろしい。「偽装・建て替え」は、既存のマンションにも影響を及ぼすはずなのだが。
あなたのマンションを「建て替えたがる」人々がいる
「お宅は老朽化が進み、欠陥も見つかった。危険なので建て替えろ」
こんな建て替え命令を求める建設業者、それを出したがっている行政関係者は大勢いる。建設業界はマンション建て替えが次の大市場を創出すると見ており、業界と天下りで結びつく官界もこれを後押しするからだ。
かつて大手ゼネコンの売り上げは、オフィスビルやマンションなどを建てる「建築分野」と公共工事に直結する「土木分野」がほぼ拮抗していたが、近年土木の占める割合は下がり、特に小泉政権以降、土木工事は激減。両者の売り上げ比は7対3もしくは8対2となっている。築後30年以上の高経年マンションが100万戸のオーダーに達しつつある現在、業界には、その建て替えが「宝の山」と映る。
しかし、マンション住民にとって建て替えは難行苦行である。
住宅建設を「スクラップ&ビルド」型の景気浮揚対策でとらえがちなことが、日本社会の構造的問題だ。私は、拙著『あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴』(草思社)や『マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日』(日経BP社)でそれを訴え、評伝『後藤新平 日本の羅針盤となった男』(草思社)を通して、都市形成の思想的核になる「公共」と「私権」についても触れた。
しかし大状況は急激には変わらない。一方では「幸せ」を求めて、今日もマンションの広告に目を通し、購入に踏み切る人々がいる。ならば現実を見すえて、実際のマンション生活を少しでも幸せに導ける方策を立ててみたい。
幸せは、購入前に万全を尽くしたとしても、それですぐに手に入るわけではない。購入した後、そこから集合住宅というアカの他人どうしが一緒に生活する場での幸せづくりが始まる。建物を維持・管理するノウハウ、その資金の調達とマネジメント、他人がひとつ屋根の下で暮らすコミュニティーの育成、災害や事件・事故への対処、少子高齢化とのかかわりなど、住民が「管理組合」という共同体を核に乗り越えなければならないハードルは多い。
人が幸せに暮らせるマンションとは、どのようなモノとコトを備えているのか? 実践編に入る助走として、世間が記憶の彼方に押しやろうとしている耐震偽装マンションの「いま」に焦点を当ててみたい。
建て替えに追い込まれてから、はしごを外される
耐震偽装事件に巻き込まれて「建て替え」に追い込まれた、あるマンションの住民たちに、3月18日付で「家賃助成の調整について」という文書が配られた。差出人は、そのマンションが立地する自治体の都市計画部長。
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1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、政治、経済、近現代史、医療、建築など幅広く執筆。「3・11」以後は、福島県南相馬市、相馬市、福島市などで取材を重ね、「アエラ」他に連続的に短編ノンフィクションを掲載中。『







