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第2回 西洋美術に圧倒された青春時代

  • 宮島 新一

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2007年4月19日(木)

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 欧米人と交際して驚くのは年次と人名の記憶の確かさである。この2つはビジネスマンにとって欠くべからざる条件だが、どちらも苦手な私は当然のことながら失格だ。早くに自分の現実不適応性を察知していた私は、別の進路を探さねばならなかった。

重要文化財『閻魔大王』 白毫寺蔵

重要文化財『閻魔大王』 白毫寺蔵

 心の中に次第に満ちてきてあふれるほどになったのだろう、奈良に行って仏像を見たいと思い立った。名古屋駅から夜行列車の「大和」に乗って、夜明け前に奈良駅に到着した。『国宝重要文化財案内』(毎日新聞社)を頼りに歩き続け、まず最初に白毫寺(びゃくごうじ)へと春日野の小径をたどった。「群像にみる仏教美術展」に同寺の『閻魔王像(えんまおうぞう)』(右写真)が出品されていたことを考えると、おそらく、展覧会を見て再び仏像に対する興味に火がともったのだろう。奈良国立博物館では元興寺の薬師如来をはじめとして、かつて見た美しい仏像たちに再会できて大いに満足し、その夜のうちに帰宅した。

 これでやっと自分の進路が見えてきた。仏像を研究することを「美術史」と言うことや、文学部にそういう学科を持っている大学がごく限られていることもわかった。奈良に行きたかったのだが、あいにく女子大学だったので、もう1つの古都の大学、京都大学を目指すことに決めた。クラス担任には「そりゃ無理だろう」と、とても柔和な表情で言われたが、京都へ行きたい一心で、無視することにした。

古美術への関心が薄らいでいった

 先生の予想に反して幸運にも入学することができたが、どうしたことか古美術への関心が薄らいでいった。コーラスの楽しさにのめり込んだためだった。その時に覚えたロシア正教聖歌は辛い時の慰めとして、今でもしばしばCDで聞いている。イタリアやフランスの澄み切った世界とは異質な、底知れない奥深さはわたしの悩みの軽さを教えてくれる。異教徒にとってキリスト教がこの世に与えてくれた最大の恩恵は音楽だと思っている。

 もう1つには、入学と同時に入った古美術研究会というサークルが逆効果だった。そこに集まっていた古美術愛好者たちはまるで自分の分身を見るようで、一緒に古寺めぐりをするのがだんだん嫌になった。顧問は教養部の上野教授で、講義は大変人気があって教室は満員だった。しかし、寺院から足が遠のくのと歩調を合わせるように、教室からも遠ざかっていった。

 定年間際になって奇妙なめぐり合わせに遭遇した。法学部出身で教養での教授の最終講義を聴講したという、1人のコレクターと知り合いになったのである。講義は教授が戦前にコレクターや古美術商のもとで目にした日本絵画を選りすぐって、解説を加えたものでとてもおもしろかったと、目を輝かせながら語った。不思議なのはその先で、近年になって講義で聞いた作品を次々と美術商のもとで見つけるようになったので購入していると、その品々を見せるとともに講義内容を完璧に思い出しては書きとめて私に示すのであった。

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