本書の素材となっているのは、昨今の中高年女性に広がる、韓流スターや氷川きよしへのミーハー的な熱狂である。著者はそれを、次から次へと感染・伝播していく「ロマンチックウイルス」と名づける。

『ロマンチックウイルス』 島村麻里著、集英社新書、700円(税抜き)
しかし、自身もミーハー歴40年という著者が本書を書いた目的は、この現象の表面的な推移を紹介することでは決してない。中高年女性の熱狂を素材にしつつ、現代における女性の「自律」の方向性と可能性を探る、いわば「フェミニズム再考」が本書のテーマとなっているのではないだろうか。
持続可能な趣味としてのミーハー
著者は、これまでだったら「大人の女がミーハーなんて」と白眼視されがちだったこうした熱狂に、(「ミーハーの初心者」による行き過ぎには「ベテラン」として眉をひそめつつも)共感し、寄り添おうとする。
その共感を下支えしているのは、これが“女性の自律”の可能性を示す現象と考えているからだろう。この現象を著者は、大別して3つの領域にわたって紹介する。
第1に、消費者としての女性の自律性だ。元来「ミーハー」な消費者たちは、ただ与えられたものを受け取る、受動的な存在とされてきた。しかし現在では、インターネットなどにおけるファンの自発的表現が定着し、消費は能動的なものとなりつつある。
女性についていえば、こうした自律性は、男女雇用機会均等法がもたらした新しい世代――典型的には1980年代後半以降の「OL」というカテゴリー――によって象徴される、女性の可処分所得の増大による部分が大きい。またマスメディアの現場で働き続ける女性も増加し、雑誌とテレビの両面で「ロマンチックウイルス」の下地が準備されてきた。
だが、日本の文化産業は、こうして中高年女性たちが培養してきた独自の嗜好を、すくい上げられないできた、と著者は述べる。それは「ロマンと郷愁」であり、青春時代の恋愛感情をもう一度体験したい、でも当時の芸能人ではなく若い男の子が、それも中高年の自分に振り向いてくれそうな子が良い、という欲求である。韓流、ハンカチ王子といった「ロマンチックウイルス」がメディアで大々的に取り上げられることは、有望な市場を見逃し続けてきた文化産業に対し、中高年女性が翻した「反旗」であると言う。
第2に、家庭内での女性の自律である。消費者としての女性の自律性を象徴するのが均等法世代のOLたちだったのに対し、こちらは主に専業主婦を念頭に置くものだろう。
「恋愛―性―結婚という三位一体の価値を信じ」、呪縛を受けてきた世代の女性たちにとっての韓流スターは、露骨で直接的な性的アピールを発しているわけではなく、中高年ファンを大切にしてくれそうで、かつ現実の家庭生活の崩壊につながる直接行動の相手でもない。彼らは「心地よい安全地帯の熱狂や妄想」を提供してくれる格好のアイドルだった。それは、「『良妻賢母』たちが世間や男たちに対して上げた」、「反乱の狼煙」であったと著者は言う。
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