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屋久島で虫捕り

2007年4月22日~23日

2007年5月16日(水)

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 ラオスの虫がまだ片付かないというのに、もう屋久島に来ている。一月前には、ラオスに向かって出発した。このペースだと、虫捕りの合間に人間の生活をすることになるが、それが正しい生活というものであろう。人間生活のスキを見て虫捕りをするようなことでは、大成しがたいのである。早稲田大学教授、池田清彦のモットー、「人生は短い、虫捕りをしないで働くような暇はない」。

 羽田から鹿児島経由で屋久島についたのが三時過ぎ、屋久島環境文化センターに入ったのが四時前、センターの十周年記念講演を六時からすることになっている。

 でもなんと、鹿児島は雨だったのに、屋久島では雨が降っていない!!。ひと月に三十五日、雨が降るという島である。林芙美子だってそう書いている(念のためだが、林真理子ではない!)。こんな日はもうないかもしれない。この前来たときも、ちゃんと雨だった。島に三日いたけど、やっぱり雨だった。昨年、屋久島に来ようとして、知人と約束までしてあったが、なんと五月なのに台風が来て流れた。

 四時ということは、講演開始の六時まで、二時間もあるということである。それなら虫捕りに出るしかない。センターから車を出していただいて、すぐそばの自然公園に行く。この季節に屋久島での講演を引き受けたのは、もちろん虫を採るという下心からである。クロサワナガハナゾウムシEuphyllobiomorphus kurosawai MORIMOTO という虫が採りたい。

屋久島のクロサワナガハナゾウムシ(先祖型)

屋久島のクロサワナガハナゾウムシ
---その昔、"ヒゲボソゾウムシ"の仲間は、この屋久島のクロサワナガハナゾウムシのように鼻が長かった。

鹿児島のヒラズネヒゲボソゾウムシ(進化型)

鹿児島のヒラズネヒゲボソゾウムシ
---その後、時を経て鼻が短くなり、この鹿児島のヒラズネヒゲボソゾウムシのような姿になった。

 5ミリほどの緑色のケチなゾウムシだが、なぜそんな虫が欲しいのか。標本は私だって持っている。兵庫県立博物館の澤田さんからいただいた。でも自分で採ったことがない。しかもこの虫は屋久島特産である。それだけではない。名前を見ると、わかる人にはわかるはずである(むろんふつうはわからないであろう)。Eu- はホントとか、真のとか、そんな風な意味で、Phyllobio- は私が調べているヒゲボソゾウムシの属名 Phyllobius に由来する。morph は形という意味である。要するに形はどう見てもヒゲボソゾウムシなのである。ただし正しいヒゲボソゾウムシは吻が短いのに、この虫は吻が長い。吻が短いゾウムシを短吻類といい、吻の長いものと、まず大きく分けるのが、分類の基本だった。でも、この虫に命名をした森本桂九大名誉教授ほかの研究によれば、これは吻が長いくせに、じつはヒゲボソゾウムシの仲間なのである。

 ゾウムシの先祖を想像してみよう。祖先は他の虫と似たような形だったはずである。そのうち吻、つまり口が伸びだしたから、ゾウムシになった。ゾウムシになりかかって、まだ吻が十分に伸びてないのが短吻類である。それなら短吻類は昔のゾウムシに近いということになる。これを以前は「原始的」などと称したのである。

 ところがヒゲボソゾウムシは吻が短い! それなら短吻類か。十九世紀の人はそう思っていた。だから図鑑を見ると、ゾウムシのはじめにヒゲボソゾウムシが置いてある。原始的と思われるグループから並べる習慣があったからである。ところがちゃんと調べてみると、なんとヒゲボソゾウムシは他の短吻類とは違う。ゾウムシは細く伸びた吻の先に、顎やらなにやらのある立派な口があるのだが、その口の形が、ヒゲボソゾウムシの場合、短吻類のものではなく、吻の長いグループのものなのである。

 それならどういう結論になるか。ヒゲボソゾウムシは、吻がまず長くなってフツーのゾウムシになり、それから二次的に吻がまた縮んだ。ということは、原始的どころか、かなり進化の進んだグループだということである。吻が縮んだために、先祖型を示す短吻類にふたたび形が「一見似てしまった」のである。そこで屋久島のゾウムシの登場となる。ヒゲボソゾウムシの吻が縮む前の、吻の長いゾウムシだった時代のヒゲボソゾウムシの形を残しているヒゲボソゾウムシが、屋久島のクロサワナガハナゾウムシなのである。

 ああ、疲れた。説明が長い。名前も長い。

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「屋久島で虫捕り」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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