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北陸、越前市で虫を捕る

2007年6月13日(水)

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 連休が終わりそうになって、石垣島の虫をなんとか標本にし終わった。

 五月六日から越前市に行った。じつは武生なのだが、市町村合併で越前市という妙な名前になってしまった。今庄も南条も武生も、区別がつかなくなった。私の父親は越前大野の出身だから、福井は縁がない土地ではない。

武生には田中保さんという人がいて、本業は材木屋、大工さんらしい。ただし本業をやっているところを、私はあまり見たことがない。でも製品はときどき無断で私の家に持ってきてくれる。パソコン用の机とか、椅子とか、木で作ったマウスとか、そういうものである。私はその机と椅子とを使って、これを書いている。

 一昨年、自宅の郵便箱が壊れたので、秘書がたまたま田中さんに連絡したら、郵便箱を作って持ってきてくれた。これがなんと、ゾウムシなのである。呆れた。

 田中さんのところの棟梁が自作したものだが、いちばん苦労したのは、肢だという。六本の肢を、すべて自然の木の枝で作ってある。適当な枝を六本、探すのがたいへんだったという。それにしても、こんな郵便箱は世界に一つしかあるまい。

ご神木前で「自然と暮らし隊」の人たちと

ご神木前で「自然と暮らし隊」の人たちと

 田中さんは「自然と暮らし隊」というのを地元民で結成して、山に小屋を建てたり、有機で田んぼを作って草むしりでコリゴリしたり(もう田んぼは作らないといっている)、スイカ畑を作ったり、杉林を間伐して、そこで演奏会を開いて、 自分もギターを弾いたりしている。武生に行くと、その仲間の人たちが十数人、一緒に虫捕りをしてくれる。このところ三年、それが恒例になっている。

 もちろん奥野先生という虫屋さんが仲間にいるから、それができる。この方はヤシャゲンゴロウの発見者である。福井県の山奥に夜叉が池という池があって、そこにだけ、このゲンゴロウがいる。奥野先生の指導があるから、「自然と暮らし隊」の人たちが採ってくれた虫は、ちゃんとした標本になる。標本になったものは、自動的に私が取り上げてしまう。こんな都合のいい話は、なかなかあるものではない。ただし素人が採るのだから、普通種が多いのは仕方がない。

 そのなかにときどき珍しいものが入っている。今年の大発見はエノキミツギリゾウムシである。越前市村国山で採れた。この虫を私は自分で採ったことはない。形を見ていると、なんだかアリじゃないかという気がしてくる。アリの巣と関連して生活する虫は好蟻性昆虫などと呼ばれるが、形が変わっているものが多く、見るからに珍しいという感じがすることが多い。一匹しか採れてないし、自分で採ったわけではないから、アリとの関係はわからない。標本は私が取り上げて、ニコニコしている。いまこう書きながら、またニコニコしてしまった。

 六日に武生に着いたら、雨が降っていた。大した雨ではないから、しばらく時間を潰してから、万葉公園に行った。裏山があって、池もあり、虫がいそうなところである。この辺でかならず採れるのは、リンゴヒゲボソゾウムシの北陸型。

 元来が緑色のきれいなゾウムシなのだが、北陸ではなぜか黒い個体が圧倒的に多い。申し訳ていどに緑の鱗片がついていたりするので、なんだか汚い感じになってしまう。

 この日は田中さんのお宅に泊めていただく。夜は近所のお坊さんが来て、対談。それを「自然と暮らし隊」の人たちが聞くという仕組み。なんの話をしたか、すっかり忘れた。虫以外のことはすぐに忘れる。

コメント1件コメント/レビュー

尾瀬に水芭蕉や高山植物を見に行き虫もいろいろ見た。仙石原の湿生花園は先日みて芭蕉に大笑いした。涼しげで沖縄を思い浮かべた。ひめしゃらの幹をみる度にルノワールの若い娘の赤らんだ頬みたいと思う。日記、ひとまず蕎麦であがりとはあっさりして胃にもたれない。(2007/06/26)

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「北陸、越前市で虫を捕る」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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尾瀬に水芭蕉や高山植物を見に行き虫もいろいろ見た。仙石原の湿生花園は先日みて芭蕉に大笑いした。涼しげで沖縄を思い浮かべた。ひめしゃらの幹をみる度にルノワールの若い娘の赤らんだ頬みたいと思う。日記、ひとまず蕎麦であがりとはあっさりして胃にもたれない。(2007/06/26)

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後藤 忠治 セントラルスポーツ会長