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ケチな改革が教育をダメにする【前編】

  • 広田 照幸, 斎藤 哲也

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2007年6月29日(金)

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【特命助手サイトーの前説】

 日本の家庭の教育力低下という常識を覆した『日本人のしつけは衰退したか』にいたく感銘を受け、広田先生に初めてお目にかかったのは2005年10月。すでにこの時期、教育基本法改正がホットな話題として挙がっていました。

 広田先生は、当時も現在も教育基本法改正反対論者ですが、その理屈が面白い。

 世の多くの反対論者が口走りがちな「日本を軍国主義にするつもりか」という論調に対して、先生は「そんなふうにはなりませんよ」と冷静に語っていました。そして、基本法改正が想定している国家像や愛国心は「時代遅れ」なのだ、と一刀両断。

 「この人はタダの抵抗勢力じゃないぞ」と思って、あれこれインタビューすると、「教育に期待しすぎてはいけない」とか「13歳のハローワークは早過ぎる」とか、常識の逆を行くプラグマティックな「教育論」が次々と繰り出され、教育報道の空騒ぎぶりに辟易していた僕は、溜飲の下がる思いをしたのでした。

 あれから1年半。ますます混迷をきわめるニッポンの教育、そして教育改革に一石を投じるべく、この日経ビジネスオンラインにご登場を願った次第です。

 今回のお話も、「教育改革」と言いながら、改革論者が意図的に目をそらそうとしている、日本の教育最大の問題点を指摘しています。それはズバリ「人と金の不足」です。「教育をビジネスの理屈“だけ”で語ってよいのか?」という問題意識にもつながっていく話です。

 教育には、これまでマスコミから報じられていることからは伝わらない重要な論点がごろごろあります。僕自身、まだ勉強途上です。知らない者の強みで、広田先生に素朴な疑問をどんどんぶつけさせてもらいます。教育こそ国家百年の計の礎。みなさんのご感想をじっくり吟味しながら、この連載を深めていこうと思います。


 私は、教育社会学という分野を研究しています。今日から「日経ビジネスオンライン」でしばらくの間、昨今の「教育」について思うところを率直に語らせていただくことになりました。

広田照幸教授

広田照幸教授

 教育は、現在もっとも注目される話題と言えるでしょう。たしかに、ふだん、教育のニュースにはこと欠きません。安倍首相の肝いりでつくられた教育再生会議、昨年末に通過した改正教育基本法、未履修問題、いじめ問題……、これだけ大騒ぎされているのだから、よっぽどいまの教育はダメになっているのだろう、とにかく教育のシステムを変えなければならん、と世の中はざわめきたっています。

 でも、はたして本当にそうなんでしょうか? そもそも、「再」び「生」き返らせなければならないほど、日本の教育は瀕死の状態にあるのか? 次々と提案される「改革」案は、果たして現状よりも良い結果をもたらすのか? 「再生」というスローガンによる改革が、かえって、日本の教育の息の根を止めることになりはしないのか?

 現在、さまざまな教育改革案が出されています。しかし、それらを目や耳にするたびに、一番大事な「改革」を忘れているんじゃないか、と私は思います。それは、ヒモつきでない金と人を増やすことです。ただでさえ余裕がなくなっている教育現場が、小手先の「改革」続きで疲弊しきっている。それこそが、最大の問題だと思います。

 子ども一人ひとりときちんと向き合うだけの余裕が失われているのが、最大の改善すべき点だと私は思います。

世界最低レベルの教育負担

 客観的なデータで見てみましょう。

 GDP(国内総生産)に対する公的な教育費負担の比率は3.5%(2003年)。これは、30カ国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)で最下位の数字です。1学級あたりの児童数は、小学校で28.6人、中学校で33.9人。これもOECDの平均である初等教育21.4人、前期中等教育24.1人(2004年)を大きく上回っています(OECD「図表で見る教育」2006年版)。義務教育費の国庫負担率も2006年(平成18)に2分の1から3分の1に引き下げられました。

GDPに対する教育費負担(2003年、出典:OECD「図表でみる教育」2006年版)
順位 国名 公財政
支出
私費
負担
合計 順位 国名 公財政
支出
私費
負担
合計
1 アイスランド 7.5 0.5 8.0 16 カナダ 4.6 1.3 5.9
2 韓国 4.6 2.9 7.5 17 ポルトガル 5.8 0.1 5.9
3 米国 5.4 2.1 7.5 18 オーストラリア 4.3 1.5 5.8
4 デンマーク 6.7 0.3 7.0 19 オーストリア 5.2 0.3 5.5
5 ニュージーランド 5.7 1.2 6.8 20 ドイツ 4.4 0.9 5.3
6 メキシコ 5.6 1.2 6.8 21 イタリア 4.6 0.4 5.1
7 スウェーデン 6.5 0.2 6.7 22 オランダ 4.6 0.4 5.0
8 ノルウェー 6.5 0.1 6.6 23 日本 3.5 1.2 4.8
9 スイス 6.0 0.6 6.5 24 スロバキア 4.3 0.5 4.7
10 ポーランド 5.8 0.7 6.4 25 チェコ 4.3 0.4 4.7
11 フランス 5.8 0.5 6.3 26 スペイン 4.2 0.5 4.7
12 フィンランド 6.0 0.1 6.1 27 アイルランド 4.1 0.3 4.4
13 ベルギー 5.9 0.2 6.1 28 ギリシャ 4.0 0.2 4.2
14 ハンガリー 5.5 0.6 6.1 29 トルコ 3.6 0.1 3.7
15 英国 5.1 1.0 6.1   OECD 各国平均 5.2 0.7 5.9

 教育財政の締め付けは、現場教員の負担増に直結しています。「教員は夏休みもあるしクビにもならないし、楽な商売だ」と思っているとしたら、それは大きな誤解です。

 公立の小中学校を対象に、昨年実施された教員勤務実態調査によれば、勤務日の平均労働時間は約11時間です。1966(昭和41)年度の勤務状況調査と比べて、教員の残業時間は2006(平成18)年には2~3倍に増えてしまっています。

教員の残業時間の変化(1週あたり)

教員の残業時間の変化(1週あたり)

 教員に残業代はありませんから、すべてサービス残業です。休憩・休息時間にいたっては、1日10分もありません。

 みなさんは部活で生徒を引率するときの先生の日給をごぞんじですか? 1日生徒の部活につき合って、東京都の場合だと1700円です。「時給」じゃなく「日給」ですよ。2006年の教員意識調査では、「仕事量が多すぎて、今のままでは長く続けられそうにない」と回答する教員が、何と36%にもなっています。

 毎日ヘトヘトになるまで働いている彼らに、さらに上から改革を押しつけるやり方では、決して教育を良くすることはできません。

 

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