「ロッシーニの料理」

ロッシーニの料理

2007年6月25日(月)

第3回 絶品料理「注入マカロニ、ロッシーニ風」

19世紀のパリ美食界でセンセーションを巻き起こす

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ロッシーニの天才によってできた料理

 「トゥルヌド・ロッシーニ」と並ぶロッシーニの創作料理の傑作、それが銀の注入器でフォアグラとトリュフのソースをマカロニに詰める「注入マカロニ、ロッシーニ風Maccheroni siringati alla Rossini」である。イタリアの研究家ニクラ・マッザーラ・モッレージによれば、オリジナルの調理法は次の内容だったという。

●注入マカロニ、ロッシーニ風

マカロニの穴からじわりとにじみ出る芳香と食感、これがたまらない「注入マカロニ、ロッシーニ風」。

マカロニの穴からじわりとにじみ出る芳香と食感、これがたまらない「注入マカロニ、ロッシーニ風」。
撮影:小川玲子 制作協力:Chez Inno(シェ・イノ)

 本場ナポリ産のマカロニを下ゆでし、水気をよくきっておく。フォアグラ、トリュフ、ヨークシャー・ハムを刻んでベシャメルソースでなめらかにした詰め物を用意する。それを銀の注入器を使ってマカロニの穴に詰め、かまどに入れる皿に並べる。上質のトマト、バター、パルメザンチーズをからめ、グラタンに焼き上げる。
(モッレージ『マルケの歴史的・民族的料理』)

 今では忘れられたこの料理、19世紀のパリ美食界でセンセーションを巻き起こした。博識の食通キュルノンスキー(Curnonsky、1872〜1956)は、作家ピエランジェロ・フィオレンティーノ(Pier-Angelo Fiorentino、1806〜64)による次の賛辞を紹介している。

 申し分のないマカロニ料理をつくるには、ロッシーニの天才が必要であった。この見事な料理をこしらえるのに、どのような肉のこし汁、どのようなトマト・ピュレ、どのようなおろしたパルメザンチーズ、どのようなバター・クリーム、それにどれほど積極的な注意や細かい心遣いを要したかがわかれば、フランス料理を冒瀆する、あの嘆かわしい、いい加減なつくり方はなくなるだろう!
(キュルノンスキー『美食の歓び』大木吉甫訳、三修社、1980年より)

 ロッシーニのマカロニを食べた詩人フランソワ=ジョゼフ・メリィ(、1797〜1865)も次の詩的な表現でこの料理を讃えている。

ルーは黄金色に輝き、東洋の芳香を放つ。
そのなめらかさはオリンポスの神肴(しんこう)のよう。
晩餐のさなか、太陽光線とみまごうマカロニは、
《セミラーミデ》序曲のごとく鳴り響く。
(アンドレ・カストロ『食卓史』)

ロッシーニは料理用に銀の注入器を特注?

 この料理のポイントは、フォアグラ、トリュフ、ヨークシャー・ハムを刻み込んだベシャメルソースにある。噛んだマカロニの穴からじわりとにじみ出る芳香と食感、これがたまらないのだ。作り方も手が込んでいる。フードプロセッサーなんて便利な調理器具のない19世紀のこと、材料をみじん切りにするにも手間がかかる。それを下ゆでしたマカロニの穴に1本1本詰めていく。ロッシーニはこの料理用に銀製の注入器を特注で作らせたと言われ、同時代のイラストにも、それらしき注入器が描かれている(図版参照)。

ベンジャミン作のカリカチュア(パリ、1860年代)

ベンジャミン作のカリカチュア(パリ、1860年代)


 「注入マカロニ」を調理するロッシーニの姿は、食通の貴族フュルベール・デュモンテイユの手で次のように描写されている。

 その時ロッシーニが、デリケートで太り気味の手に銀の注入器を握りしめて現れた。トリュフのピュレの詰まったそれで、彼はパスタの円筒の一つ一つにこの比類のないソースを忍耐強く注入していった。そしてそれらをあたかも揺りかごの中へ赤ん坊を戻すように、キャスロールの中に置いていった。ロッシーニはお気に入りの料理を見守りながら、その場に恍惚として佇(たたず)んでいた。マカロニのたてる軽やかな囁(ささや)きを、神曲の妙なる調べのように耳を傾けながら……
(デュモンテイユ『ロッシーニのマカロニ』)

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著者プロフィール

水谷 彰良(みずたに・あきら)

水谷 彰良

1957年東京生まれ。日本ロッシーニ協会事務局長・副会長。フェリス女学院大学オープンカレッジ講師。朝日カルチャーセンター(新宿)講師。国立音楽大学・同大学院非常勤講師。著書:『プリマ・ドンナの歴史』(全2巻、東京書籍)、『ロッシーニと料理』(透土社、絶版)、『消えたオペラ譜』、『サリエーリ モーツァルトに消された宮廷楽長』(第27回マルコ・ポーロ賞受賞)、『イタリア・オペラ史』(以上、音楽之友社)。


このコラムについて

ロッシーニの料理

グルメブームを堪能する日本人。だが、イタリア生まれの作曲家ロッシーニの美食ぶりは半端ではなく、37歳で作曲をやめてしまい、グルメ三昧の後半生を送ったとされる。このコラムでは美食作曲家ロッシーニの生涯と作品、創作料理の秘密を紹介すると同時に紹介していく。

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