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柵を作るのが、ヘタになっていませんか

  • 小橋 昭彦

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2007年6月26日(火)

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 先の週末は日役(ひやく)でした。区民総出で、山裾にそって獣害対策の柵づくり。「日役」といっても都会育ちのあなたはご存じないかもしれませんね。気になったので手元の『広辞苑』で調べたのですが、載っていませんでした(昭和51年発行の第二版補訂版と古い―あなたが生まれる前―のですが、亡き祖母が中学生になるぼくにプレゼントしてくれた思い出の品です)。

 日役というのは、地域に暮らす全員に参加義務のある共同奉仕作業です。こうした半ば強制的な活動が地域にあることの是非あるいは意義についてはあらためてお伝えすることにしましょう。今日は、今回行った「柵を作る」ことを通して、田舎の環境について考えたいと思います。それは同時に、前回の一文で触れた、長靴を脱いで泥に足を踏み入れるような、自然との境界があいまいな環境をかみくだくことにつながるはず。

柵が果たす役目

 観念的な話はさておき、柵づくりそのものは、たいへんだけど単純な作業です。

 数メートル間隔で鉄柱を打ち、その間に金網を張っていく。高さはおよそ2メートル。これを山裾にそって続けます。今回は200~300メートルだったでしょうか。鉄柱を打つ手をとめて汗を拭いていると、向こうの森からウグイスの鳴き声がホーッホケッと伝わってくる。「鹿も賢いからな、こんな切り株のそばに張ったら、踏み台を置いてくれておおきにって飛び越えてくるで」なんてバカ話をしながら作業を進めていく。

 かと思うと、ひとりのおじいちゃんがこんな話をしてくれる。あるとき、金網に鹿がひっかかってもがいていた。見せてやろうと近所の子を集めてきたんですね。「うわー、鹿や」とみんな喜んでいる。で、おじいちゃんが次にしようとしたのは、鹿を殺すことです。解体して、食べる。でも、その計画を口にしたとたん、子どもたちが「えー、かわいそう」と叫びはじめた。仕方ないから子どもたちを帰して、あとで処分したのだと。

 金網は鹿や猪が山から降りてきて畑を荒らすのを防ぐためのものです。わが家の畑も、山に近いところは朝になると動物の足跡がいっぱいついていて、作物が荒らされている。今年はその畑で作るのをあきらめたほどです。そんなわけで、こうして柵を作ったり、ちょうど今もその時期ですが、猟友会の人たちが捕獲に入ったりで、対策を進めている。

柵が隔てるもの

 ところで柵というのは、一般的には何かの境界を表すものですよね。

 ぼくは網を張りつつ、この柵は何と何を隔てようとしているのかと考えていたのでした。柵の向こうには、森林があって、鹿や猪や狸や猿たちがいる。ただしそこは彼らだけの領域ではなく、人間が植林した木が立ち並んでもいる。一方、柵のこちら側は人間の領域ということになるのでしょう。でもそこにいるのは人間だけではない。畦にはひばりが巣を作り、溝にはタニシがいて、この季節にはホタルも舞っている。

 けっきょくのところ、柵は便宜的なものであって、実際にそこに境界があるわけではない。日本の昔話を読んでいると、狸や狐に化かされる話がありますよね。ということは、獣たちは昔からそれなりに里に出てきていたのでしょうし、獣の領域と人間の領域というのは、明らかな境界を持つものではないのでしょう。

 前回の手紙で認めた、長靴を履いて自分を守ろうとするのに似て、最近の人間は、こうした境界の保ち方が下手になってきたのかもしれません。寛容性とでもいうのでしょうか、あいまいな領域を許容する余裕を失い、その結果が柵という白黒を明確にする手段につながっている。

寛容性の喪失

 それは、現代の日本に広く見られる現象かもしれません。

 勝ち負けなんていう二分法で人を見てしまう風潮もそうでしょう。小学生の長男を見ていて思うのですが、学校での評価が唯一の基準になってしまって、学業は並みでも親孝行とか、地域に戻ればガキ大将とか、そういう見方がしづらくなっている。あなたにも、授業はダメでもサークルで輝く友人がいませんか? 人は本来、簡単に分類できませんよね。そういう複眼的な見方をする懐の深さを失っている。

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