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伯耆大山でまたまたゾウムシを捕る

2007年7月4日(水)

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 五月二十六日から約一週間、山陰方面で採集の予定を立ててあった。理由はいくつかある。

 まず第一に、ヒゲボソゾウムシの分布が、中国地方はよくわかっていない。じつはわかっているのかもしれないが、ともかく私にはわかっていない。

 第二に、去年も行ったのだが、季節が早すぎた。天気も悪くて、十分なデータが取れずに敗退した。だから捲土重来を期す。

 第三に、私は旧赤来町、平成の大合併後は飯南町にある、島根県立中山間地域研究センターの特別顧問である。だからときどきセンターに行かなければならない。(もちろん私が行かなくても、だれも困らない。でも行かなきゃ、虫が捕れないじゃないか。)

島根県立中山間地域研究センター

島根県立中山間地域研究センター

 中山間地域というのは農水省の概念で、要するに過疎地のことである。島根県は徹底的な過疎県だから、こういう立派なセンターがあること自体が、過疎対策みたいなセンターなのである。

 私が特別顧問であるのに、いささか具合が悪いことには、このセンターには福井幸二さんという虫屋がいる。だから行くよというと、たちまち虫捕りのプランができてしまう。さらに田坂裕嗣さんという働き者がいて、あちこちに連れて行ってくださる。

 それに加えて、なぜか山陰の虫屋さんのうち、暇のある人がその時期に集まる。集まって飯を食う。飯を食って、親睦を深める。これも過疎対策というべきであろう。なぜなら虫屋くらい、過疎地に頻繁に行く人たちはないからである。

 日本政府は虫屋をすべて、過疎地に移住させればいい。ただし虫捕りだけでは食えないから、生活を保障する必要がある。それには道路工事の予算を当てることにする。道路を作ったことにして、お金を払えばいいではないか。そんな僻地にちゃんと道路ができたかどうか、確認に来るのは虫屋だけである。あとはどうせ熊や狸しか使わない。会計検査院が来るわけがない。

 山陰に飛行機で行けば近い。出雲空港、米子空港、石見空港まである。でも私は頑として列車で行く。今回も五時起き、新幹線で岡山に行き、特急出雲で出雲駅まで行った。

 列車から見ると、景色がよく見える。どこに虫がいそうか、それを見る。草木が豊かに生い茂った山を見るだけで、胸が膨らむ。珍しい虫がいるかもしれないと思う。美人がいるかもしれないとは思わない。

 飛行機じゃあ、細かい景色が見えない。山全体の様子はわかるが、天気が悪いと全面的に雲しか見えない。

 ともあれ出雲について、センターの田坂さんのお出迎え。あとはすべて田坂氏任せという大名旅行。

 まず古代出雲歴史博物館に行く。出雲大社のわきに最近できた立派な博物館である。荒神谷から出た銅剣が三百何十本、全部みごとに並んでいる。博物館の建物も立派で、ひたすら感心する。ただ私は、人工物に関して、本質的には関心がない。せっかく見せていただいたのに、申し訳ありません。それは、世間の大多数の人が、本質的には虫に関心がないのと同じである。

 それから松江の島根県庁に行き、四月からの新しい知事さん、溝口善兵衛氏にご挨拶をする。いちおう私は島根県の顧問だからである。溝口知事さんは、財務省の出身とはとても思えない、人柄のよさそうな方である。むろん私は財務省に対して強い偏見を持っている。虫屋にお金を出さないからである。

 私は過疎地になんの関係があるかというと、なにもない。ただ思想的には反都会、反東京、親田舎なのである。私が育った時代は日本中が田舎だった。冷暖房もパソコンもケータイもなく、テレビすらなかった。車がなくて、牛と馬がたくさんいた。要するに田舎出身である。だから歳をとるほど、田舎がよくなる。

 都会に住むなんて、アホの極みだと思っている。都会とは黒山の人だかり、人をかきわけて真ん中に出てみても、なにもない。出世したところでホリエモンに村上ファンド。警察に捕まるだけ。そもそも虫がいない。六本木ヒルズに虫がいるか。このビルはそのうえ禁煙。なんで虫のいない土地なんかに住むのだ、アホが。

 遠路はるばる来たのに、この日はあいさつ回り、虫捕りはなし。だから機嫌が悪い。松江のホテル泊まり。

 翌27日には、伯耆大山に行くように、福井さんが予定を組んでいてくれた。大山は島根県ではなく、鳥取県だが、まあそういう細かいことは、どうでもよろしい。日本のおおかたの若者は、島根と鳥取の区別がつかないはずである。つくというなら、津和野がなに県で、米子がなに県か、いってみな。

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「伯耆大山でまたまたゾウムシを捕る」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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