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夫の配慮は妻の厄介

  • 山崎 雅保

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2007年7月4日(水)

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 山ですか?
 いやいや、仕事です。貴方は?
 旅です。写真撮りながら、あちこちほっつき歩いてるんです。このあたりは、もう4日ほどうろついてます・・・。

 長野県北安曇郡白馬村「倉下の湯」。
村はずれの閑にたたずむ日帰り温泉。泉質=ナトリウム塩化物・炭酸水素塩温泉。能書きには「フォッサマグナに2500万年もの間封じ込まれ熟成された温泉。空気に触れると褐色に輝く」なんて書いてある。2500万年もの熟成。ホントかよ、とは思うけど、ま、そういうことです。

 口はばからぬなら、褐色の輝きというより赤錆のごとき濁り。木製の大きな浴槽も、それを取り囲む板場のすべても、すっかり赤茶け汚れているようにみえてしまう、けど通なら大喜びであろう名湯。

 ボクはこの湯に十余回浸かってきたけれど、2500万年由来の濁色には毎度たじろぎます。同時に、温泉とはかくあるべしとも思えば、濁り湯の温もりがひときわありがたく染み入ります。

 6月半ば。久しぶりにあの湯を堪能。半屋根つき露天風呂。真西に大きく開いた空には北アルプス八峰あたりの峰々が、いまだ白雪を頂いていました。

 ぬるりとした湯船の床。舐めれば塩の味。ひとしきり温まって後、のぼせぬように上半身を風にくつろいでると、すぐそこにもくつろぎきった老紳士。目が合って話しかけてきました。

 60代後半かな。機嫌よさそうに目を細めて言葉を返すオヤジさん。こっちもオヤジ、あっちもオヤジ。安心し合えば、たわいないやり取りの中にも「語りつくせぬ思い」の影が見え隠れ。

 ま、家と旅とが半々といった日々です。2人暮らしは気詰まりだから、女房もそれなりに気楽なんでしょう。とくに文句は言いません。

 まさに悠々自適ですね。
 そうそう、悠々自適の貧乏旅。クルマが小さな我が庵です。

 キャンピングカーですか?
 ただのワンボックスさ。やっと寝られるだけの広さ。慣れると気軽でいいもんです。

 話題は長野北部の名所談義に移りました。あそこはいい、ここもいい、貴方も行ったか、ボクも行った。楽しき情報交換です。

 小谷村の標高2000メートル近くの栂池自然園。あそこは春・夏・秋、いつ行っても壮観ですね。
 いいそうですね。実は私、まだ行ってないんです。あそこはゴンドラで登るほかない。その往復料金は、私の旅の2日分以上の資金に相当するからね、つい足が向かなくて。

 そうなんだ。彼の旅費用は1日あたり2000円以下なのか。だとすれば、月の半分を旅空の下で過ごしても、せいぜい3万円。貧乏旅かどうかはともかく、彼はそのようにして旅を己が日常とし、味わい尽くそうとしているのでしょう。

 それでもね、ゼイタクできてます。ありがたいもんで、アクセク働き続けた歳月の垢が、きれいさっぱり流れ去ってくれます。

 ボクは言葉を返さぬまま、思いました。
 このおおらかな表情。機嫌よくたわむれる口調。それは、働き続けた歳月の垢も、夫で父たる役割の垢も、すべて洗い流し続けた成果なのか。切なくかつ羨ましいなあ。
 そう思いました。

 目を上げると、空の蒼の下に残雪の峰々の白。文字通り一期一会の味わいでした。

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