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中国地方でゾウムシを採りながら、日本の地史の謎を考える

2007年7月11日(水)

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 伯耆大山での採集を終え、翌26日には飯南町の中山間地域研究センターを訪問した。だってそこに行くのが公式の用件なんだから。おかげで今日は、所長さんも採集に参加してくださるという。

 行く先はセンターの近く、島根県の県民の森である。そこからさらに奥に入ると、大万木山(おおよろぎ)と琴引山をつなぐ稜線に出る。そこが草峠(くさんだお)である。

大万木山(おおよろぎ)と琴引山をつなぐ稜線、草峠(くさんだお)

大万木山(おおよろぎ)と琴引山をつなぐ稜線、草峠(くさんだお)

 地名の読み方が奇妙なのは、出雲方言だからである。出雲弁は東北弁に似ていると、よくいわれる。出雲はおそらくなんらかの先住民族の地であろう。

 出雲大社は「大社」で、諏訪大社などと同じく、現在の皇室が成立する以前の信仰の名残りらしい。大社とは、神社本庁の統括順位の外にある神社だという。伊勢神宮は皇室系の正統な神社だから神宮で、大社ではない。というのは耳学問で、本当かどうか、知らない。虫のことならともかく、人間の取り決めなんか、私の頭のなかでは、本当はどうでもいいのである。

 県民の森には一昨年夏にも行った。子どもたちのための昆虫教室をやったのである。そのときに、ミズキでエグリクチブトゾウムシを三頭採った。森本・小島・宮川の総説「日本の昆虫」Vol.3 には、分布地として九州のみが挙げられている。似た種がなければ、本州から新記録かもしれない。

 クチブト類は南のゾウムシで、南方に行くほど種類が増える。だから日本では暑い季節に多い。それに対して、いま調べているヒゲボソゾウムシは、形はよく似ているが、北のものである。早春から出現する。真夏には減って、ほとんどいなくなる。

 世界的に見れば、ヒゲボソ類は約二百種あまりを含む。ヨーロッパからシベリア、コーカサス、イラン、モンゴル、沿海州から日本に分布する。古典的な生物地理学では、この地域を旧北区という。東南アジア、インドなどの南方、つまり東洋区にはまずいない。

 クチブト類は、日本からユーラシア大陸の南部に分布する。インド、ヒマラヤ、東南アジアからオーストラリアまで、やたらに種類が多い。たぶん数千種に達するはずである。屋久島の項ですでに述べたように、ヒゲボソは吻がいったん伸びて、二次的に縮んだ。クチブト類ははじめから吻が短い。

 私は東大医学部に勤めていた時期、食虫類を調べていた。食虫類にも同じような南北のグループがある。北のものはトガリネズミで、ヒゲボソとほぼ同じ地域に分布する。もう一つはジネズミで、これはクチブトと同じように南に分布する。この二つのグループの比較をしていた。仕事が終わらないうちに大学を辞めたから、比較は半端で終わった。それを今度はゾウムシでやっている。雀百まで、踊り忘れず。

 五月の終わり、梅雨前ではクチブトは少ない。その代わりヒゲボソがいる。オニグルミには「クチブト」ヒゲボソゾウムシがついていた。これはクチブトゾウムシではない!

 この種はヒゲボソの一員だが、性質はかなり違う。右の総説で新属Ophryophyllobius ができて、そこに移された。この種を記載した(最初に記録して名前をつけた)シャープが、この種はヒゲボソ属 Phyllobius ではないだろうと、すでに書いている。それから百年以上たって、独自の所属が決定したことになる。ヒゲは太くて短く、頭にコブ状の隆起があり、全体にきれいな緑色ないし黄緑色で、鱗片は形が丸い。ふつうのヒゲボソと違い、クルミにしかつかない。いるところにはたくさんいるが、たとえば神奈川県では採れていない。関東より東には少ないのではないか。福井には普通にいて、田中さん一党がたくさん採ってくれる。

 県民の森は手入れがたいへん行き届いている。ということは、虫採りにはあまり向かないということである。でも大きな木があって、叩きやすい。ケブカとキュウシュウヒゲボソがたちまち採れた。ここのキュウシュウは桜にいるのが気に食わない。ソメイヨシノにつくキュウシュウは、国内移入種の疑いがある。

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「中国地方でゾウムシを採りながら、日本の地史の謎を考える」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中村 克己 元ルノー副社長、前カルソニックカンセイ会長