ここ七年ほど、四国で採集を続けている。最初はそんなつもりではなかった。でもヒゲボソゾウムシを調べだしたら、妙なことがわかって、四国から足が抜けなくなった。四国はヒゲボソ地図では、東西に分かれてしまうのである。
四国が二つに割れるというと、南北だと思う人が多い。そうではなくて、東西である。四国の形を思い浮かべてもらえば、すぐにわかるであろう。亜鈴状をしている。その二つのかたまりで、それぞれヒゲボソの種類が違っている。
大ざっぱにいうと、西側にはトゲアシ、東側にはケブカトゲアシがいる。また四国にはコヒゲボソがいない代わりに、その近似種として、クロソンヒゲボソが西に、ホソヒゲボソが東にいる。
東西に分かれるなら、その境目がどこか、それを調べなければならない。そこがいささかやっかいである。おおよその見当はついているが、詳細になるとわからない。
それで6月19日から四国入りした。たまたま高松で講演の予定があり、これは虫とは無関係。そのあと大阪の天野礼子さんの招待で、高知県の仁淀川町に行くことになった。天野さんは京大や高知大と共同で、海里連関学や有機農業関係のネットワークを作っている。
これまで四万十川、吉野川の流域はかなり調べたが、仁淀川流域はまだよく調べていない。だから虫採りついでということで、ご招待を受けた。仁淀川町と高知市で話をする義務がついている。
天野さんはたいへんアクティヴな人である。昨年も天野さんの関係で、高知の横浪半島に行った。ここには高知県の子どもセンターがあった。財政上の理由で県がそれを潰すというので、天野さんたちが努力して建物を残し、京大と高知大が協力して海里関連学の研究施設にした。その開所式に私も呼ばれ、京都の村田泰隆さんと対談をした。
村田さんは村田製作所の会長さんだが、蝶の研究家としても著名である。土佐は初めてだといわれた。蝶に釣られて高知に来たらしい。施設の庭で対談をしたが、ちょうどツツジが満開だった。そこにアゲハが次々にやってくる。村田さんは蝶の写真を撮るから、おかげで気が散って、落ち着かないようすだった。
もっとも私はついでに土佐市の蟹ケ池に行って、高知虫の会の人たちと虫採りをした。ヒゲボソは採れなかったが、タカハシトゲゾウが採れた。
高松での講演を済ませて、高知に向かった、南風号を佐川で降り、天野礼子さんのお迎えで、旧池川町で八百メートルの高所にある永野雄一さんの別荘に行く。二十人は入るという大きな家である。永野さんは健康食品関係の仕事をしておられ、別荘の近所の人たちにトマトの栽培をさせているという。
八角のホールがあってガラス張りなので、夜になると蛾がたくさん寄ってくる。残念ながら甲虫は少ない。やっと見つけたのが、ヒラズネ一頭。蛾では久しぶりにオオミズアオを見た。これは鎌倉の自宅にもよく来ていた巨大な蛾である。いまはほとんど見なくなった。

四国・徳島のリンゴコフキゾウムシ

四国・徳島のハダカヒゲボソゾウムシ
20日の朝から、まず別荘の上の雑誌山へ行く。頂上は千三百メートルを超える。この山系は石鎚山ともあるていど切れており、四国カルストともつながらない。いちおう独立している。そういう点で、調べる価値がある。
標高千百メートルあたりに、中嶋與市郎の切腹跡がある。維新の志士で、脱藩しようとして、ここで捕吏に囲まれて自害したという。水ノ峠というところで、ここを抜けると愛媛県である。
ここではヒゲボソが四種類採れた。トゲアシとニシコブとキュウシュウとハダカである。トゲアシがいるということは、このあたりは西だということである。石鎚山も西で、四国カルストも西だから、問題はない。さらに東の方に東西の境界を求めなければならない。こうして仕事が増えていく。念のためだが、だれに頼まれたわけでもない。
キュウシュウが採れたのには、ちょっと驚いた。四国ではこれまで、重信町、久万町でしか採れていない。私は高知県では始めてである。イタドリにたくさんついている。サクラも数多く植えてあるが、ソメイヨシノではない。しかもこのサクラにキュウシュウはいない。そうなるとこのキュウシュウは自然分布の可能性が高い。トゲアシも同じくらいいるし、ニシコブもいる。このあたりのイタドリはヒゲボソだらけである。もちろん他の樹木からも採れる。
翌日、さらにその翌日と、雑誌山には三日間通った。なにしろヒゲボソが採れることはわかったから、安心して採りに行く。
この山はふつうの地図には山名が出ていない。山頂付近は自然林が残って おり、大きなブナが生え、足元は低いクマザサである。斜面にはヒメシャラの大きいのも見える。立ち枯れのブナでもあれば別だが、こういうところではあまり虫は採れない。それに急斜面を上るので、息が上がってしまう。虫採りと山登りは両立しない。
それでも頂上に行くまでに、いくつか副産物が採れた。セダカコブヤハズがいちばん大きい虫。足元の落ち葉の下に、黒いゴミムシが通るのが見えたの で、追いかけたが捕まらなかった。しみじみ年齢を感じる。ところが小さな茶色のゴミムシが横から出てきたので、お土産に採っておく。四国のチビゴミはよく分化していて、ひょっとしたら珍品かもしれない。
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