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非効率、不合理を憎む私たちが作る『累犯障害者』

~元国会議員が訪ね歩いた不条理な事件の跡

  • 和良 コウイチ

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2007年8月29日(水)

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累犯障害者

累犯障害者』山本譲司著、新潮社、1400円(税抜き)

 「秘書給与詐取」によって一時世間を騒がせた元民主党議員・山本譲司を覚えているだろうか。懲役1年6カ月の実刑判決で黒羽刑務所に入所。彼を待ち受けていたのは、精神障害者、知的障害者、認知症老人、視覚障害者、肢体不自由者など、一般懲役工場の作業がこなせない受刑者を隔離しておく場所で刑務官をサポートする懲役作業だった。

 本書は、そんな体験をした著者が出所後に知的障害者の起こした幾つかの事件を取材し、まとめたノンフィクションである。『累犯障害者』というタイトルは、「次から次に犯罪に結びついてしまう障害者たち」という意味で名づけられたもの。周りからは「障害者の問題を扱うんだったら、まずは被害者になる障害者を取り上げるほうが先ではないか」との批判も浴びたというが、タブー視されやすい問題に切り込んだからこそ画期的な一冊といえる。

 印象深いのは、「レッサーパンダ男」を扱った章である。

 2001年4月30日の昼間、19歳の短大生がボーイフレンドが出場する格闘技大会の応援に駆けつける途次、動物帽を被った男によって刺殺された。大々的に新聞やテレビで扱われ、犯人は事件発生10日後に逮捕された。が、間もなくこの事件に関する報道はぱったり途絶える。加害者が知的障害者である場合によく起こる自主規制らしい。

 1972年2月、札幌で生まれたレッサーパンダ男こと山口誠被告は、小・中学校と地元の普通校に通うも成績はオール1に近く、学校や近所でもいじめられていた。中学卒業後は、高等養護学校に進学。卒業と同時にクリーニング店に雇用されるも、1カ月もたなかった。「養護学校卒の知的障害者」とからかわれ、いじめに遭っていたようだ。次に就職した印刷会社ではより凄惨ないじめに遭い、暴力によって前歯はほとんど失われた。やがて、彼は浮浪者に近い生活を送るようになる。

不安定な怒りの階段を上っては落ちる読後感

 幼少の頃から彼に厳しく、皮膚が腫れあがるほど青竹で叩いたり、真冬に全裸にして外に放り出したりと、折檻を繰り返した父親。母親は山口被告が高等養護学校3年のときに白血病で他界し、妹は家計を支えるため中学卒業後から食品加工会社で深夜まで働いた。父親は定職につかず、妹は末期ガンと診断された後も働き続けて一家の生活を担う。必死に貯めたアルバイト料も自身の治療費や父の小遣いに消えてしまい、山口家は貧困のどん底にあった(事件後、58歳にして父親にも知的障害があることが判明している)。事件が起こるまで、この一家には行政の「福祉」とかかわる機会がまったくなかった。

 本書を読み終わるまで、一番私の身近にあった感情は「怒り」だ。怒りの矛先は、山口被告だけではなく、学校や職場で彼をいじめた者たち、彼を育て得なかった父親、そしてこれほどまで過酷な家庭環境に無策だった福祉行政へと、1カ所にとどまることを許さない。特定の誰か1人のせいに済ませることはできない。たとえると、“階段”のようなものを上がっていっては崩れ落ちる、また上がっていっては崩れ落ちる、そんな不安定な感覚のまま、ただ怒りだけを携えていた。

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