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移民を拒み続ける米国版“万里の長城”

  • 藤田 宏之

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2007年7月20日(金)

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 国境は、どこであっても紛争が生じやすい。紛争が起こると柵が設けられ、柵はやがて壁になることもある。そして、目には見えなかった国境が本物の壁になると、誰もが嫌でもそれを意識する。

 人間は壁を作りたがる一方で、目障りにも感じるようだ。壁は、向こう側にいる人間にもあり、自分自身にもある「心のへだたり」を思い起こさせるからだ。壁をつくろうとする人間の心の底には、恐怖心と支配欲が潜んでいる。

 メキシコとの国境警備の強化をめぐる議論が高まる米国では、いま壁が新たに脚光を浴びている。3141キロメートルにおよぶメキシコとの国境線上には、不法移民の流入を食いとめようと、1990年代から、要所要所に柵や壁、車両止めが設置されてきた。サンディエゴでは、14.5キロメートルにわたって二重の柵が設けられた。移民問題をめぐる世論の動向しだいでは、じきに全長が数百キロメートルにも達する壁が増設される可能性もある。



アリゾナの砂漠に横たわる鉄のバリケード。まるで第2次世界大戦中、連合軍のノルマンディー上陸を拒もうとドイツ軍が設けた障害物のようだ。
アリゾナの砂漠に横たわる鉄のバリケード。まるで第2次世界大戦中、連合軍のノルマンディー上陸を拒もうとドイツ軍が設けた障害物のようだ。

 国境にまたがって市街地が広がる中西部の町、ナコでは、米国側の800人あまりの住人が、ここ10年ほど、高さ4メートルの鋼鉄の壁のかたわらで暮らしてきた。州兵が動員されて、現在ある約7キロの壁が、砂漠へ向かってさらに40キロ拡張されようとしている。

 この小さな町で最大の建物が国境警備隊本部だ。銅板でふいたその屋根は、灼熱の太陽を浴びてきらきら光っている。そして2つの町を切り裂く鋼鉄の壁の向こう側、メキシコ側のナコには現在8000人が暮らしている。

 米国側のバー「ゲイ・ナインティーズ(陽気な1890年代)」は、ナコの壁から駐車場ひとつ隔てただけの場所にある。ほとんどの客はスペイン語と英語を使い分け、国境線の両側に親戚がいる。バーテンのジャネット・ワーナーは、長年この町に住み、成功をおさめた幸運な住人の一人だ。しかし彼女は、壁沿いに設置された巨大な照明塔のために、夜になっても星空を眺められなくなったと嘆く。ときおり、国境の壁を乗り越えてきて店でビールを飲み、また壁を越えて帰っていくメキシコ人もいるという。

 このバーのほかに営業している店はわずかしかない。国境に続く商店街には、空き店舗ばかりが目立つ。2001年9月11日の同時多発テロ以降、米国政府がメキシコとの出入国検問所を保安上の理由でいったん閉鎖し、もっと東寄りに移設したために閉店に追いこまれたのだ。

 何十年もこのバーを経営してきた54歳のハンサムな男性、レオネル・ウルカデスは、国境の壁について複雑な思いを抱いている。「もう慣れたよ。壁ができた当初は名案だと思った。メキシコから車で密入国する連中がいて、国境警備隊がしょっちゅう追っかけていたからね。でも、やっぱりこの壁は醜いね」 。

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