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【第8回】 『ノヴェンバー・ステップス』をめぐって

武満さんともっと冒険できるような仕事がしたかった

  • 諸石 幸生

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2007年7月27日(金)

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 1991年にスタートした武満徹(1930-96)作品の録音は川口義晴さんの新しい経験とキャリアの始まりとなった。邦楽演奏家との交流、名曲『ノヴェンバー・ステップス』をはじめとする武満作品に対する新たな目覚め、録音現場でのエピソード、そして早すぎた武満徹の死がもたらした衝撃など、川口さんのレコード・プロデューサーとしての想いは尽きることがない。


―― 『ノヴェンバー・ステップス』が録音第1弾となった経緯は前回にお聞きしましたが、録音の方向性についてはどのような考え方で臨まれたんですか。

川口: 武満さんの昔の曲ってそれなりに録音もあるし、それらの中にはもうこれ以上の録音はできないと思えるほど優れたものもある。だから、そういう作品は意識的に避けてやりましたね。『アーク(弧)』なんていう6曲セットの作品などは自分としてはやってみたかった名作ですが、あの岩城宏之さんと若杉弘さんの録音を超えるのはまず無理でしょう。だからそういうのは外しましたけど。

『ノヴェンバー・ステップス』と『秋』

―― でも、『秋』のような珍しい作品もありますね。『ノヴェンバー・ステップス』の後日談といいますか、改訂版とも言える『秋』などを川口さんの録音で聴いていると、武満さんの成熟ということを強く感じさせられます。オーケストラの扱い方とか、表現の深みとかですが。

川口義晴さん

川口義晴さん (写真:清水 健)

 それは全然違います。今思い出すのは、僕が最初に『ノヴェンバー・ステップス』をと提案したところ、武満さんとしては「『ノヴェンバー・ステップス』はもういい。録音も3種類ぐらい出ている。だからぜひ『秋』をいれてほしい」と言われたんです。だから、どうしてもやらなきゃならなかった。ただ実際に『秋』を録音したのは1996年7月ですから、武満さんが亡くなられた後になってしまいました。

 『ノヴェンバー・ステップス』は西洋の音と日本の音を対決させたなんて言われているけれど(本人もそんなようなことを書いているけれど)、僕は全然そんなふうには思わない。あの曲はね、映画の構造を使ったんだと僕は思うんです。つまり主役と映像と脇役や道具を含めた背景の映像の構造関係を。琵琶と尺八の奏者、その2人が主役であって、オーケストラは背景なんです。だってオーケストラが前景に出てくるところはないでしょう。

 ところが、それが『秋』になると、これは10年後に書かれた作品で、琵琶の鶴田錦史先生に、同じ編成でもう1曲を、と言われて書いたわけですが、琵琶と尺八という「邦楽器」をオーケストラにまで拡大している、つまりオーケストラそれ自体が巨大な邦楽器と化した世界が描かれている、そういう構造の曲だと考えています。

―― 『秋』はそれほどの名作なわけですが、しかし『ノヴェンバー・ステップス』も『秋』も実際の録音はいかがでしたか。尺八に琵琶、楽器も演奏家も川口さんには初めての経験だったと思いますが。

 いやあ、全然分かんないからね、尺八も琵琶も(笑)。お2人とは初めて顔合わせて収録したわけですが、鶴田さんなんか車椅子でプレイバック室に来られて、「いかがでしょうか」てな具合でしょう。「いかがでしょうか」って言われてもこっちは困るんでね。邦楽の人に譜面の細かい所をどこまで要求していいかも分からない。その時は「畏(おそ)れ入りました」と、鶴田先生に答えましたけど、そうとしか答えようがない。

でたらめな演奏は著作権を逸脱した行為

―― 実は、僕は1989年の夏、小澤征爾さんがサイトウ・キネン・オーケストラでヨーロッパ・ツアーを行った際に同行取材したんですが、その時もお2人、鶴田先生と横山先生がいらっしゃいました。曲の1つが『ノヴェンバー・ステップス』でしたから。今となっては、カデンツァはどのような順序、段取りでやることにしているのかなど重要なことをもっと聞いておけばよかったと思いますが、その頃は何も知らず、「お昼は中華にしましょうか、見つけてきますから」と、そんな話ばかりしていたことが悔やまれます。

「弦楽器のためのコロナII」の楽譜。武満徹さんとデザイナーの杉浦康平さんとの共同制作。この曲は東京都交響楽団で録音された

「弦楽器のためのコロナII」の楽譜。武満徹さんとデザイナーの杉浦康平さんとの共同制作。この曲は東京都交響楽団で録音された

 あのね、あのカデンツァはね、いくつかの断片が書かれてあって組み合わせと選択は自由なんですが、全部お2人の間で決めてあるんです。だから大筋はいつも変わりようがないんですよ。

 でもね、武満さんが亡くなった後、日本フィルハーモニー交響楽団でアメリカ人尺八奏者のジョン・海山・ネプチューンが『ノヴェンバー・ステップス』を演奏しましたが、もうでたらめでしたね。カデンツァで歌い出したりね。これは著作権法違反だし、何よりも人格権の侵害になる。実際に書かれてもいないことを、あたかも書かれているかのごとく演奏してしまう。僕もそれは著作権法に触れると思いましたね(モーツァルト、ベートーヴェン時代の作品と違って、たいていの20世紀作品では作曲者がカデンツァを作曲している。武満のこの作品もそうである)。

 でも、音楽評論家とか作曲家たちにそういうことを指摘しても、「作曲者が亡くなったら仕方ないかな」と言う人が大勢いました。それでいいんですかね。要するに譜面をちゃんと見て、作曲者がどこまで書き込んでいて、どこまでが許されるのかということを全然分かってないですよ、皆。

―― 声を出していいというところはカデンツァにありましたよね。

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