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第5回 まず書いてみる

自分ひとりの時間に、自分のために字を書いてみることが大切

  • 奥本 大三郎

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2007年8月7日(火)

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 「筆で字を書いてみよ、なんて言われたって、自分は悪筆で、とてもそんな事を楽しむ気にはなれません。たまにパーティーや結婚式の受付で、硯と筆しか置いてなかったら。まったく冷や汗を掻(か)きますよ」

――実にその通り。受付に若い女の子なぞが座っていて、こっちの手元を見るともなく見ていたりするとやっぱり意識してしまう。

石箱硯 紫金石(安徽省) 宋代 縦8.8×横5.9×厚さ2cm 副葬品として使われたと思われる

石箱硯 紫金石(安徽省) 宋代 縦8.8×横5.9×厚さ2cm 副葬品として使われたと思われる (撮影:清水健)

 半分乾きかけた小筆を、硯の中のとろりとした墨汁に漬けて、「芳名録」なる和綴風の冊子の縦罫の中に自分の名が納まるようにと筆を下ろすと、最初の一点か一画で、筆の腰がくにゃっと折れ、ついとんでもなく太く書いてしまう。

 「しまった!」

 と、力を抜くと今度は細すぎる。だいたい立ったまま、中腰の姿勢で書かされるのがよくない。電車に乗ったり車に乗ったりしてきて、そのまま字を書くのは無理という気もする。

 やっぱり筆で字を書く時はちゃんと座って、紙に少し練習して手を慣らしてからでないとうまくいかない。

 しかしそれは、我々が筆を扱い慣れていないから、力加減が身についていないのである。

昔の人は筆で字を書くのを体で覚えていた

 昔の人なら子供の時から筆で字を書くしかなかったから、力加減もへったくれもなく、体がそれを覚えていたのであろう。

 武士が野外で自害する時、木の幹を削って辞世の句を書いたりする。その時ももちろん、筆に墨である。

 明治三十六年、一高の学生、藤村操が日光華厳の瀧に飛び込んで自殺するという事件があったが、その時藤村は傍らの楢(なら)の木の幹を削って「華厳頭之感」という辞世の一文を草している。

 「悠々たる哉天壌、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て此大をはからんとす、ホレーショの哲学竟に何等のオーソレチーを価するものぞ……」

 という美文調のナンセンス、センテンスなのだが、これも筆と墨なればこそ、であって、マジックや筆ペン、ましてボールペンでは格好がつくまい。

 今ならあんな観光地の木の幹を削った段階で管理人に見つかって自然破壊で訴えられよう。

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ジェニー・ダロック 米ピーター・F・ドラッカー伊藤雅俊経営大学院学長