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緊急提言! 現場知らずの「耐震偽装対策」が招く危機

制度の煩雑化が招く大混乱、品質低下、価格上昇につながる恐れ

  • 山岡 淳一郎

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2007年8月7日(火)

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 今回は、住宅政策上のとんでもない制度変更について書く。一般メディアは、まだ、まったく触れていないが、下手をすると経済に大打撃を与えかねない状況なのだ。

 国交省住宅局建築指導課の独善的な「思いこみ」が、建築設計の現場を大混乱に陥れている。国は耐震偽装への対応策として建築基準法を改正し、建築確認の厳格化を打ち出した。偽装も見抜けない確認審査ではダメだ。徹底的にチェックしろ、と号令一下、通達(「建築確認の指針」)で縛りをかけた。が、これが現実と乖離した机上論だった。

 「6月20日、新制度の施行日になっても確認申請に必要な行政側の書類が整っておらず、最大手の確認検査機関の確認業務が3週間もストップしてしまった。住宅局建築指導課が確認の厳格化という「錦の御旗」を掲げ、やみくもに突っ込んでいったのはいいが、味方は誰もついてこられない。そんなバカ殿のコントのような話が、本当に繰り広げられたのである。

 「行政側の書類が整っておらず」とは、具体的にどういうことか。

「書類に書く内容が定まらず、着工できない!」

 「つまり、提出せねばならない書類が山のように増えたのに、そこに何を記載すればいいのかが、はっきりしていないんです。指針を作った本人も、分からないのでしょう。指針どおりやろうとしたら、作業は無限大に広がる。おまけに手数料は増える。書類の差し替えや変更もままならない。そのつど、確認を申請し直せ、ですよ。確認を出せなくて、着工できない物件がゴロゴロありますよ」

 と、建築設計事務所の構造建築士は言う。しばらくして7月の着工統計が発表されたら、あまりの落ち込みぶりに世間は騒然となるだろう。国民経済への影響が懸念される。

 確認を厳しくして、劣悪なデベロッパーや建設会社、設計事務所が淘汰されるのであれば消費者は歓迎しようが、どうもそうではない。厳格化が煩雑化にすり替えられ、天下りの集金システムが築かれつつある。設計会社の多くは面倒な手続きと設計行為の調整に戸惑い、確認申請を出すに出せない。窓口となる自治体の建築指導課は閑古鳥が鳴く。

 このツケは、建築費の上昇、販売価格の値上げで一般の消費者に回されようとしている。
 
 しかも、法改正の最大の眼目である「建物の安全性」が高まるのかというと、疑問符だらけなのだ。耐震偽装を防ぐつもりが、逆に総体的な安全性に赤信号。角を矯めて牛を殺しかねない状況なのである。

 日経アーキテクチュアが設計実務者を対象に行ったアンケート調査によれば、回答者数1058人のうち法改正で「建物の質が向上する」と答えた人はわずか11%。「変わらない」が51%。「低下する」がなんと24%。以下「わからない」12%、無回答2%となっている。低下する理由として「簡単なプランにしないと確認が下りない。その結果、つまらない建物が増える」「(確認に関する)作業が増えた分は、下請けに押し付けられるだけ」とシビアな意見が返ってきている(詳しくは同誌7月9日号)。

 中越沖地震でも明らかになったように、既存の古い木造の中には脆い建物が少なくない。新耐震基準が導入された1981年以前に建てられたマンションの中にも著しく耐震性に欠けるものがある。建築確認手続きの煩雑化、手数料のアップは、そうした既存建物の確認が必要な耐震改修にブレーキをかけると予想される。危険な住宅は、とり残されていく…。

いったいこの制度の狙いは何なのか

 なぜ、こんな制度を国交省の官僚たちはこしらえたのか?

 そもそも建築確認は、建築基準法に基づき、建築主(実際は代理の設計事務所や建設会社)が申請した建物の「建築計画」が法令に適合しているかどうかを「着工前」に審査する行政行為だ。確認が下りなければ工事にとりかかれない。「建築計画」と「着工前」が、この仕組みのポイントとなる。 

 マンション建設では、建築主であるデベロッパーが土地を手に入れて計画が練られる。基本プランに沿って下請けの設計事務所が基本設計を行って確認申請を出すのが慣例化している。基本設計の内容が審査されている間に、設計事務所は、実際の工事に対応する実施設計を詰める。そして基本設計への確認が下りるのを待って、着工されてきた。

 確認の対象は建築計画(基本設計)であり、実施設計とは必ずしも一致しない。工事が始まれば、設計図と施工状況に差異が生じ、施工図も描かれる。法律は確認が下りた基本設計どおりに建物を造れとは規定していない。建設現場は状況によって変化する。それを認めなければ、施主の好みで建てながら設計を変更する「注文住宅」や、マンション購入者の希望で間取りを変える「フリープラン」は成り立たなくなる。

 従来は、こうした着工後の設計変更については、「軽微な変更」なら確認書類の差し替えで了承されることから、「軽微な変更」を拡大解釈し、3LDKを2LDKに変えるような「プランの変更」なども書類の差し替えで認められてきた。基本設計と実施設計のズレ、現場での設計変更などは、事実上、黙認されてきた。その代わり、行政側は工事の中間検査、完了検査を行う。ここで諸々の差異が妥当かどうかチェックするというわけだ。合格した建物に完了検査済証が発行され、入居可能となる。

 ただし、中間検査や完了検査を行う担当者が、実施設計図面でチェックしているかどうかは不明。確認対象の基本設計書類を手に現場に来る人が大半だ。たとえ詳しい施工図を見ながら検査するとしても、コンクリートが打たれた現場でいちいち、壁の向こうに鉄筋が何本入っているか肉眼では見抜けはしない。確認制度は、基本的に“ザル”である。

 あるいは、確認が下りるまで着工は認めないと言いながら、基礎工事の前段階の「根伐り(穴掘り)」は堂々と行われている。確認制度は矛盾だらけで、建物の安全性は、建設する側のガバナンスに委ねられているのが実情だ。

 そのような状況下、今回の改正で確認の対象となる建築計画を徹底的に実施設計に近づけ、厳密化させる指針が示された。一見、出発点を明確にしたようだが、実務の限界を超えた対応を求めている。例えば内装のクロスについても、製品の品番とともにメーカーの認定証をつけろ、との指示。全建材にこの方針が貫かれようとしている。構造上の安全性とはほとんど無関係なことにまで偏執的に厳密さを要求しているのだ。

 そのうえ設計の変更についても、よほど軽微な変更以外は、工事を止めて確認を取り直せ、と通達している。これは、費用と工期に重大な影響を及ぼす。

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